【翻訳記事】ABMにおいて直面する3つのポイントと解決策 | MarketOne

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【翻訳記事】ABMにおいて直面する3つのポイントと解決策

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米国の調査会社のForrester(フォレスター)社によると、91%の企業がABMを活用して案件の平均金額を増やしており、そのうちの25%の企業が50%以上も案件金額が増えたと述べています。

しかし、言い換えれば「それ以外の企業は、ABMを計画段階から踏み出せていない」とも捉えられるでしょう。

今回はMarketOne InternationalでリリースされたThe top 3 ABM challenges that B2B organizations struggle with (and how to fix them)をベースとして翻訳と一部加筆を加え、ABMに取り組む際に直面する3つの大きなポイントと解決策をご紹介します。

ABMのBtoBマーケティングにおける有用性 

近年、「アカウントベースドマーケティング(ABM)」がバズワードとなっており、多くの企業がB2B企業の営業・マーケティング戦略としてABMを取り入れています。また、この傾向はしばらく続くとみられます。 

その理由は、ABM戦略では、大口顧客の意思決定者をターゲットに絞り、高頻度かつ高度にターゲティングされたメッセージを発信することで、より大きな成果を得られるというビジネス特性にあると考えられます。 

マーケティングテクノロジーの台頭により、ABMをより手軽に実践するための土壌が整いました。さらにいえば、ABMの専門家や参考になるケーススタディも増え続けています。 

つまり、ABM戦略により、大きな成果に繋がる確度がアップしているのです。 

ABMの最大のメリットは「営業・マーケティングの連携が強化されること」です。営業チームとマーケティングチームが高度に連携することで「ターゲット企業の特定」「キャンペーンメッセージの作成」「マーケティングでのアプローチ方法と成果の創出」についての検討が進めやすくなります。 

さらに、ABM戦略の実施は、ROI(投資対効果)がより明確になる点もメリットです。ターゲットを絞り、自動化されたソフトウェアやツールを活用することで顧客行動を分析しやすくなるという特徴があります。 

つまり、 顧客体験に関わる情報を集約することで、顧客インテリジェンス(意思決定に必要な情報)を収集できるようになるため、より顧客の興味・関心に即した、パーソナライズされたアプローチが可能になるのです。 

Capita社のMike Green氏も、ABMについて以下のような意見を持っています。 

「アカウントマネジメントとは、長期的な戦略的パートナーシップのことだと考えています。例えるなら、結婚生活でしょうか。この場合は“アカウント企業”との関係ではありますが」 

ABM戦略の採用が自社に恩恵をもたらすというデータは複数存在します。例えば、以下のようなものです。 

  • B2Bマーケターの87%がABMはROIの面で他のマーケティング投資を上回ると回答(出典:ITSMA) 
  • マーケターの80%が、ABMはLTVを高め、86%が受注率を向上させると回答(出典:Terminus) 
  • 2025年までに、B2Bにおけるデマンドジェネレーションの取り組みの中心は、「リード」ではなく、主に「アカウント(企業)」に焦点を当てることになる (出典:Forrester) 

特に、大企業や中堅企業向けに購買期間の長いソリューションを販売する場合、ABM戦略を採用することは「(欧米では)当然のこと」になりつつあります。しかし、多くの企業にとって、ABMキャンペーンの戦略と設計は複雑なものであり、実行するとなると、難易度はさらに上昇するでしょう。 

実際に、多くの企業がABMの実施段階でつまずいており、キャンペーンを軌道に乗せられない企業は少なくありません。 

マーケットワンでは多く実行支援を行うなかで、ABMを成功させる上では3つの重要なポイントがあると気づきました。 

次項よりそれぞれについて深掘りしていきます。  

ポイント1:営業・マーケティングの“本当の意味での”連携を見出す 

ターゲット企業のリストさえ用意すれば、ABMが始められると考えている企業が見受けられます。しかしターゲット企業リストの準備は、ABMの幅広い戦略における営業チームとマーケティングチームの連携における1要素にすぎません。 

ABMを成功させるには、営業チームに計画の初期段階から参加してもらい、ABMの目的設定や成功指標について合意してもらう必要があります。営業・マーケティングが「ワンチーム」として顧客の成功と成長に向けて取り組んでいくことが重要なのです。 

マーケットワンの多くのクライアント企業も、営業・マーケティング間の連携がABMキャンペーンにおいて最も困難な要素であると述べています。  

しかし、部門間を跨いだ密な連携は、決して不可能ではありません。 

BtoBビジネスでは、製品・サービスが複雑で、顧客検討期間が長く、検討や購入に関わる意思決定者が多いのが一般的です。 

加えて、昨今は顧客がさまざまなチャネルを通じて情報収集を行なっています。ホワイトペーパーやブログ、レポート、ポッドキャスト、レビューサイトなど、考えうるあらゆるコンテンツから情報を入手することで、より良い意思決定に繋げているのです。 

そのため、これらのコンテンツをマーケティングが作成し、営業と共に顧客に対して発信すれば、ABM戦略の成功確度はさらに向上するでしょう。 

営業が抱える価値ある顧客インサイトの活用が、目的に沿ったコンテンツ制作につながる 

営業・マーケティング両チームのよりよい連携の実現のためには、「誰をターゲットにすべきか」「どのようなメッセージを送るか」「両者の意見の相違が出た場合にどのように対応するか」を定義しなければなりません。 

マーケティングは、特定の購買ステージにいる顧客のみにアプローチするのではなく、カスタマージャーニーにおけるすべての顧客接点に目を向けるべきです。 

例えば営業は、現場の最前線で見込み客との会話するなかで、より価値ある情報を収集しています。それを活かすことで、ターゲットペルソナをより精緻化できるでしょう。 

加えて、マーケティングは「顧客にとって役立つコンテンツとは、どのようなものか」を把握できます。これを活かし、営業はマーケティングが作成したコンテンツを用いて、見込み客が求めている質問に対して、より適切な回答ができるようになるのです。 

以上を踏まえると、ABM戦略において「コンテンツ作成に終わりはない」といえます。営業は見込み顧客や、既存顧客との会話から得たインサイトをマーケティングにフィードバックし、マーケティングはそれを基に、市場ニーズに応えるためのコンテンツを作成“し続ける”ことになります。 

突き詰めると、コンテンツは「売り込み」をするものではなく、顧客にとって有益な情報を「まとめるべきもの」といえるのではないでしょうか。 

チーム間の継続的な連携の重要性 

顧客からの受注後のフェーズにおいて、マーケティングは「営業が顧客ごとに最適化されたコミュニケーションを行う」ことを達成するために貢献する余地があります。 

逆に営業は、マーケティングに対してフィードバックをすることで「顧客を次のステージに進めるための最適化」を促進できるでしょう。 

この点については、米Savo Group社のKurt Anderson氏の見解が参考になります。 

「優れた組織は、“自社にとってビジネスにつながりやすい”見込み客に対して、『ライトタイミング』『ライトコンテンツ』となるようなメッセージを届けるために活動しています。 

1to1に最適化された顧客体験を提供することは、かつてはセールスパーソンにしか行えませんでした。今では、マーケティングの活動を最大限に活用するようになったのです」 

ABMを実行する上では、営業とマーケティングは、「互い」必要とします。統合された顧客体験(Unified Buyer Experience = UBX)を生み出す上では、マーケティングにとって、営業の協力は不可欠なのです。 

対する営業は、顧客に「自社ソリューション」「購買を後押しする感情面での動機づけ(Reason to Buy)」を提供して成約につなげるために、マーケティングの協力が欠かせません。 

ABM戦略を成功に導くためには、営業チームとマーケティングチームは「連携しなければならない」のです。 

ポイント2:専任者のリソースが不足している 

ABMにおいては、注力企業に対して高度にターゲットされたキャンペーンの組み立てが求められます。その上で、マーケティングチームに「ABM専用の担当者」をアサインする必要もあります。 

しかし、ほとんどの組織では既存のリソースでABMを運用せざるを得ないのが実情です。そのため、営業・マーケティングチームは定常業務に加えて、ABMのキャンペーンを実行せざるを得ない状況となっています。 

実際、マーケターの37%が、ABMにおける「最大の課題はマーケティング予算と人材の不足である」と回答しています。 

(出典:Ascend2Account-Based Marketing Approach Research Report」) 

そのような状況下では、営業・マーケティングで、ABMのスコープ決めを行うワークショップを開催することが有効です。これによりABMで「どのレベルを目指し、いまがどの程度の習熟度なのか」の目線合わせを行えます。 

スコープや施策の目的を明確にすることで、ABMで必要なアプローチを決められるため、今後想定される課題・チャレンジがどの程度なのかを把握できます。 

これらを明確にすることで、追加人材の登用についての議論を前に進めることも可能です。 

この場合、自社の営業やマーケティングチームへの採用が第一候補にあがります。今後のABMの進捗次第では、固定で人材を配置することが難しい場合もあるでしょう。 

そのようなケースでは、必要に応じて工数の規模を可変できるエージェンシーなどの業務委託による外部リソースの活用も視野に入ります。 

どのくらいの工数と予算をかけるかが、ABMにどれくらいの重きを置くかの“物差し”となります。実行可能なABMのレベルと期待される投資対効果を測る上では、事前に考えておくことが求められます。 

これらを定義することではじめて、ABMの組織においての重要度と、全社戦略にどの程度インパクトを与えるかを考えられるようになるのです。 

投資対効果を可視化すれば、ABM戦略を実行する上での経営幹部からの賛同も得やすくなるでしょう。 

突き詰めていえば、ABMはマーケティングだけではなく、「企業レベルの戦略」ともいえるものです。そのため、自社の事業戦略と連動する必要があり、実行する上では役員からのサポートも欠かせないのです。 

ポイント3:既存のマーケティングツール・KPIがABMの概念に即していない 

ABMを実行に移す際には、マーケティングツール・KPIについても、既存のマーケティングに即したものからアップデートしなければなりません。米Reachdesk社の共同創業者Alex Olley氏は以下のように述べています。  

「私にとって、『従来のマーケティング』と『アカウントベースドマーケティング』は全く異なります。もはや私は、MQLやリードスコアのような、マーケティング目線でのリード単位の話はしません。営業と同じ目線で議論しているのです。 

営業にとっては、アカウント(企業)からの受注が全てでしょう。受注やナーチャリング、クロスセル、アップセル、ブランドの位置づけなど、包括的な視点に 立って『何ができるのか』について日々議論しているのです」 

では、どのようにABMに最適化された体制構築を行えばよいのでしょうか。以下より、具体的に解説します。 

企業内担当者企業そのもの」にフォーカスを切り替える 

マーケティング部門の多くは、MQLやパイプライン、リードジェネレーションに焦点を当てた構造・設計を有しており、MAをはじめとする各マーケティング・プラットフォームはこれらを最大化するために設定されています。 

一般的に、こういった企業内担当者にフォーカスした戦略に合わせて、マーケティングの組織構造そのものも最適化されています。しかし、ここでネックとなるのがABMは“企業そのものを対象とした”戦略である点です。 

既存の考え方では、実行はままならず、必要なデータすら取得できないでしょう。「見込み顧客=コンタクト」から「企業=アカウント」レベルに尺度を変える上では、既存プロセスの変更が必要になるため、非常に骨の折れる作業になります。 

しかし、真の意味でのABMに向けた体制構築では不可欠なプロセスであると認識しましょう。 

その理由の1つは、MACRMABMプラットフォームに始まるBIツールや各ダッシュボードが、「企業単位のデータ」を取得できるように最適化されていないためです。 

例えば、ひとつの企業に対して複数の事業部門の営業がアプローチするとすると、「企業ごとの売上データ」を取得することすらままなりません。顧客の情報管理の単位が「個人」である限り、データのサイロ化は避けられなくなってしまうのです。 

関連記事:データのサイロ化に企業はどう向き合うべきか? 

KPI報告内容の見直し 

ABMを実行する際には、施策の「進捗や成果」を示すこともポイントの1つです。一般的に、株主への業績開示が四半期単位で行われる以上、事業成果も短期的なサイクルで示す必要があります。 

しかしながら、ABMは中長期にわたって取り組むべきものであるため、“わかりやすい成果”が出るまでには、非常に時間がかかる可能性があるでしょう。

つまり、各四半期のサイクルを経たとしても「ABMの成果が従来型のマーケティングよりも出ていない」ように見えてしまいかねないのです。 

加えていえば、ABMを行う上では、「成果の尺度」そのものも異なるため、KPIの立て方から変えていかなければなりません。業績にも影響がでることから、経営陣からの理解を得ることの重要度は、非常に高いといえます。 

ABMキャンペーンを行う上では「これまでの意味をなさない指標(=ABMでは使えない指標)は、捨て去る決断が求められます。 

その理由として、経営陣の関心領域である、CV(コンバージョン)数や顧客維持、ロイヤルティなどの指標が、長期にわたるABMキャンペーンでは意味をなさないためです。

ではABMキャンペーンにおけるマーケティングKPIはどのように設定するのがよいのでしょうか。 

ABMは18カ月から24カ月にかけて、あらゆるチャネルで実行“し続ける”ものです。そのため、 各チャネルで適切なタイミングで顧客接点を持ち、顧客の関心を惹くのに十分なコンテンツを用意する必要があります。 

Eメールの指標やSNSの指標、オフラインエンゲージメントなどの「わかりやすいものの、それだけでは意味をなさない指標」に頼っていては成果につながりません。 

中核となるKPIとして、以下のような指標に焦点を当てるべきです。

顧客評価
  • ブランド認知
  • NPSスコア
  • ロイヤルティ
など
顧客との関係性
  • アカウントカバレッジ
  • エンゲージメント
顧客単位の収益
  • 商談数
  • 受注率
  • 平均取引額
  • LTV
など
ターゲット顧客群のカバー率
  • 各社における保有コンタクト数
  • 上記の内、関係性のあるコンタクト
  • 各コンタクトにおける情報網羅性(プロファイル情報など)
  • コンタクト数の伸び率
など

これらのKPIは、段階を踏みながら各顧客企業を理解した上で、顧客企業の情報(アカウントインテリジェンス)を構築しつつ、時間をかけながら測定していく必要があります。  

つまり、ABMを組織に導入する上では辛抱強く、長期的に考えることが重要になるのです。通常より成果が出るのに時間がかかるとしても、粘り強く続けることで、最終的に経営層からの評価も得られるでしょう。 

3つの要素を網羅することがABM成功のカギ 

ABMは長い旅のようなもので、正しい目的地に到着するには時間がかかります。 

ABM戦略の立案と実行をする上では、「①営業マーケティングの連携に加え、長期にわたるABMプログラムの期間に対応するための「②ソース確保の方法」「③データの収集・報告方法の構築3要素を網羅しなければなりません。 

これらを正しく理解することではじめて、自社にとって最も価値の高いアカウントを獲得・育成し、関係を維持できるようになるのです。 

マーケットワン・ジャパン合同会社では、ABMに関して基本となる情報をスライド形式でまとめたホワイトペーパーも作成しています。以下よりダウンロード可能ですので、ぜひ社内で議論する際にご活用ください。 

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