Marketing Strategy

マーケティング領域で求められるプロジェクトマネジメントの定石

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はじめに 

平成のバブル崩壊後、長い不景気が続き「失われた30年」とも言われます海外企業と比べ日系企業の時価総額は上がらず、日本の国際競争力が低下しているとの指摘も多々見られるようになりました 

短期~中長期での持続可能性ある成長を目指すためには、変わりゆく市場・顧客ニーズを捉えた上で付加価値の高い製品・サービスを生み出し続けなければなりません。 

そのような「ニーズ起点」が求められる現代においてマーケティングの強化が改めて見直されています。マーケティングには、新規事業創出、デジタルトランスフォーメーションなど様々なミッションが課されるため、企業の中では様々なマーケティングプロジェクトが存在するようになりました 

マーケットワン・ジャパンでも、マーケティングロードマップ作成から、システム導入、システム運用、仕組みの構築テレマーケティングなど、年間で数々のプロジェクトに取り組んでいます。またPMO(Project Management Office)として、マーケティングプロジェクトのPMを請け負う機会も多くなりました。 

今回はマーケティングにおけるプロジェクトマネジメントがどうあるべきかについて弊社の知見も活用し論考していきます。 

 

プロジェクト vs 定常業務 

そもそも「プロジェクトとは何でしょうかプロジェクトマネジメントの団体であるPMI (Project Management Institute)によると以下のように記載されています 

プロジェクトは独自の結果を出すことで価値を生み出す期限のある取り組みです予算・納期や達成すべき期待値を満たす必要があります。独自性を持つ必要があるため、定常業務とは異なるものです (日訳)』 

つまり、プロジェクトの特徴は「独自性」「期限付きであると言えます。一方対比する概念は「定常業務」とされており、こちらは無期限で止めることなく継続して行う必要があります。 

社内で何かの取り組みをする場合、プロジェクトと定常業務に分かれると意識しておかなければなりません 

プロジェクトは独自性を持つため必然的に「新しいことをする」営みとなります。新しい試みを進行させつつも、関係者の期待値を調整し、QCDの管理をするための中核となるのがプロジェクトマネージャーやプログラムマネージャーです。新たなチャレンジをしていく上では関係者も含めて、高い意欲やスキルが求められます 

一方で定常業務はルーティンであるとの印象を持たれがちですが、定常業務のポイントは「問題を起こさない」「業務を止めない」ことです。 

電車を例にとると、日本は時間に正確な交通インフラを保有しているため、時間通りにトラブルなく運航することが当たり前に求められます。しかし、災害やトラブルなどで電車が止まってしまうと、大きな混乱をきたします。 

このように、定常業務はある種の「インフラ」の要素があるため、ミスが許されないという性格を持つのです。 

 

プロジェクトばかりだと疲弊し、定常業務ばかりだと新しい試みは生まれない 

冒頭で述べたマーケティング強化に係るミッションを達成するためには、新しい取り組みが必要となるためプロジェクトに比重が置かれますしかし、プロジェクトでは様々なステークホルダーが関わり、各々の思惑が入り乱れる中で“マネージしていくパワーが必要です。 

マネージするというと管理するという印象を持たれる方も多いかもしれませんが、英語表現の「Manage toを見てもわかる通り、本来は「なんとかをする」とのニュアンスです 

プロジェクトマネージャーにしても、プロジェクトをなんとか成功させるという状況になってしまうのが推進する上での本音ではないでしょうか。(管理職であるマネージャーも同じことが言えるはずです) 

全体のリソースを考えた場合、パワーをかけて短期のプロジェクトを回し続ける取り組みは、現場からすると先の見えないトンネル」に入っているような印象を持ちます 

一方で定常業務もインフラ的な性格を持つと述べたように、正確に業務を遂行しなければなりません定常業務の遂行では、その前提となる仕組みが整っている必要があり、仕組みの上で業務を遂行することが求められます。 

そのため、成果を出すことよりもミスをしないことが求められる定常業務ばかりに注力していると、どうしても新しいことを生み出すことには消極的になってしまうのです 

 

プロジェクトを定常業務に転換する 

プロジェクトは独自性があるため、立てた計画に基づいてプロジェクトを実行できるのは一部のプロジェクトメンバーに限定されるケースも少なくありません。 

一方でそれだけではプロジェクトはスケールせず、現場にも浸透しないためプロジェクトに持続可能でなかったり、リソースが埋まってしまったりという状態に発展する可能性があります。結果的に、他のプロジェクトに着手できず、プロジェクトは絵に描いた餅で終わってしまうこともあります 

それを避けるためにも、プロジェクトとして出来上がった成果物を展開できるよう標準化して浸透する取り組みが必要になります。 

本ブログは製造業の方にも多く見ていただいていますが、これは日本の産業の基盤であるものづくりの現場では普段から行われていることではないでしょうか 

製品開発」と聞くと、自社技術を結集して製品を作り上げるイメージを持たれる方が多いはずです。一方で製品開発には大きく2つ工程があり自社技術で製品が開発できるか ?」「開発した製品を量産化できるか?」が重要になります。 

一部のエンジニアのみが組み立てられる製品を作ることと、工場のラインで製造原価などのターゲット要求を満たしながら量産できる製品を作ることでは、設計の仕方が大きく異なるのです。 

同様に、プロジェクトにおいても一部のメンバーにナレッジをとどめるのでなく「量産化する」ために定常業務に展開する前提で仕組みを作った上で、その仕組みをしっかりと展開しなければなりません 

 

マーケティングプロジェクトの組み立て方 

以下より、どのようにプロジェクトを組み立て、定常業務に展開していけばいいのかについて、弊社が行っている取り組む上での進め方を説明します。 

1. 全体の絵(ブループリント)を描く 

まずはマーケティングの仕組みを組み立てる上で、向かうべき方向性を打ち出す「全体の絵(ブループリント)」を描かなければなりませんそれにあたっては各プロジェクトに落ちる前に役員や役職者がリーダーシップを持ちながら動く必要があります 

2.イニシアチブを達成するためのプロジェクトを立ち上げる 

全体の絵を描いたら、各プログラムやプロジェクトを立ち上げます関係者同士で要件定義をしながら各自の意向を組み入れて、個別のプロジェクトの成功が全体の成功に繋がるように設計し、目的達成のためにプロジェクト推進します。 

3.定常業務に落とすためのプロジェクトを立ち上げる 

次は、プロジェクトの成功事例を展開するフェーズですが、いきなり定常業務に落ちる訳ではありません。定常業務に落とすためには、プロセス・マニュアルなどを整え、各種のトレーニングが必要です。 

マニュアルの整備は全体をわかっている人でないとできません。独自性があり、納期を指定しながら進めていくため、QCDを設定しつつプロジェクトをマネジメントしていくことも求められます。 

4. 定常業務を進める 

定常業務として開始した後は、指定されたプロセスに従って運用します。この際、各種のチェックリストなどに沿いながら、業務が止まらないように運営していくことが大切です。 

定常業務をこなす中で、プロセスに不備があったり、担当者にミスがあったりという場面も出てくるでしょう。そういった場合には、原因調査に加えて再発防止を検討する必要があります。 

担当者自身は自分がミスしたことを反省し、再発防止に努める必要があります。一方でそれ以上に重要なことが、組織として「ミスを起こした仕組みそのものを疑う」ことです。システム等でハードに対応するのか、運用のソフト面で対応するのかを明確にする必要があります。 

5.「定常業務を改善するプロジェクト」を立ち上げる 

ビジネスシーンでは、さまざまな場面でPDCAという言葉が使われますが、「今後PDCAをしながら検討」などのように問題を先送りにするための“方便”として使われているケースも散見されます 

具体的にいつ検討するのか?」「検討項目は何にするのか?」「誰が実施するのか?と細かく聞かれると、答えられない場合も多いのではないでしょうか。 

そのため、前述のような問題が起きたときの突発的な対応は例外として、定常業務を回すメンバーを中心として“改善”するためのプロジェクト」の立ち上げを計画時に盛り込んでおくと確実です。 

これらに関してMA(マーケティングオートメーション)を題材に具体例をあげて説明をします。 

MAシステム導入後最初に配信するメールは前例もないため、プロジェクト化して進めます。このタイミングのプロジェクト化では、工数をかけながら問題ないように与えられた状況の中で最大限の効果を発揮できるように企画し、実行していくことになるでしょう 

一方で半年、一年たった後も同様にプロジェクトを進めていると拡張性がありませんこの段階では「アセットのテンプレートを整える」「企画のプロセスを整える」「チェックリストマニュアルを整えるなどのプロジェクト化が必要です。 

それらを元に、トレーニングを受けたメンバーで日々の業務を回し、定期的なタイミングで配信結果の確認や、作業担当者のヒアリングを行いますそれにより、業務プロセスの見直しや、企画書・アセットテンプレートの修正のプロジェクトをしつつ改善を進めるというイメージです。 

欧米では、本国でマーケティングオペレーションを構築し所定のエクセルのテンプレートを担当者が埋めれば、インドなどの海外拠点で指示通りにすべてを設定し、メール配信までを実施する量産体制を築いている企業も増えています。 

VUCAと言われる時代企業は生き残りをかけて様々な取り組みをしなければなりません。一方でヒト・モノ・カネのリソースは無限ではなく、むしろ足りないことの方が多いしょう。 

リソースを最適化しながら、新しい価値を生み出すためにはどのようにすべきかマーケティングのみに関わらず知恵を出し合いながら絶えず工夫していくことが大切です。