【対談】Faber Company: ゼロからマーケティング活動を 根づかせた挑戦と変革のヒント | MarketOne

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【対談】Faber Company: ゼロからマーケティング活動を 根づかせた挑戦と変革のヒント

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自身のマーケティングスキルや知見が足りない、あるいは社内におけるマーケティングの仕組みや組織がうまく機能していないーー。そういった課題が山積であるにも関わらず、マーケティング専任者にアサインされてしまったという悩みを抱える担当者は少なくないでしょう。そうしたケースにおいては、営業や経営層に、その重要性やアクションの必要性を理解してもらうことはより困難であることは想像に難くありません。

しかしその実、「デマンドセンター」のようなフレームワークを活用し、打ち手の順序を明確にすることで、本質的な問題点を改善に導くことも可能ではないでしょうか。

そこで今回は、Webマーケティング事業を展開する株式会社Faber Company(ファベルカンパニー)の執行役員・エグゼクティブマーケティングディレクターの月岡克博氏にお話を伺いました。営業担当として入社し、BtoBマーケティングの知見を習得しながら、機能と組織をゼロから作り上げた月岡氏。ご自身の作り上げてきたフレームワークをデマンドセンターに当てはめながら、課題整理のプロセスと問題解決のヒントを紹介してきます。

武器がなければ自分でつくる――地道なゲリラ戦から始まったマーケティング

大橋:今回月岡さんにお話を伺いたいと思ったのは、2022年の夏に、日本社団法人デジタルマーケティング研究機構の中のBtoBマーケティング委員会のセミナーでお会いしたのがきっかけでした。ゲストスピーカーとしてご登場いただいたんですが、月岡さんのご経験は、BtoBマーケティングに課題を抱えるご担当者にとって非常に有効なヒントになるだろう、と感じたんです。そもそも、Faber Companyにご入社された時点では、営業がご担当業務だったんですよね。

月岡:そうですね。前職ではSFAやCRMのコンサルティングや営業に携わっていたのですが、「エンタープライズの顧客獲得を強化していきたい」と、当社の代表に声をかけられてFaber Companyに入社したんです。当時は率直に言うと、顧客を獲得しようにもリードがない、顧客管理システムは請求書発行にしか使われていない、というのが実情でした。もともと当社の顧客群は中小企業がほとんどで、CRMと言っても営業個人が顧客とリレーションを築きながら、がんばって営業しているような状況でしたね。

株式会社Faber Company 執行役員 エグゼクティブマーケティングディレクター 月岡 克博様

大橋:なるほど。BtoBのマーケティング業界では「有象無象の対象ではなく、成功確度の高いターゲットに向けて効率的なアプローチ」を行うための「デマンドセンター」という考え方が比較的一般的です。そのため、まずはターゲットになりうる顧客群のコンタクト情報の収集が必要となりますが、月岡さんが最初に取り組まれたのもその部分だったわけですよね。リード獲得に向け、具体的にどんなことをされたんでしょうか?

マーケットワンのデマンドセンター フレームワーク

月岡:当時、当社にとって一番の商品はコンサルティングサービスなどを中心とした“情報”でした。「新しいリード獲得のために無料セミナーを実施したい」と経営陣に伝えたときは、無料で情報提供するなんてもってのほかだ、と一蹴されてしまいました(苦笑)。仕方がないので、マーケティング関連のイベントに参加者として出向き、登壇者に片っ端からコミュニケーションを取っていきましたね。1年くらいそうした地道な活動を続けた後は、つながりができた顧客の事例づくりを進めました。そして、その事例を活用してさらに営業しに行ったんです。

大橋:デマンドセンターのフレームで言うと、まずはコンタクトデータベースを構築し、それから事例というコンテンツを制作して、Pull型の仕組みを作りそれを武器にニーズ喚起や案件育成を行っていったんですね。

マーケットワン・ジャパン合同会社 執行役 ビジネス開発管掌 大橋 慶太

月岡:そうですね。営業に使える武器が当時は何もなかったので、一人でゲリラ戦を行っていたという感じでした。何かしら引き合いを取るための環境をつくることに奔走していたと感じでしょうか。

1000件のリード獲得を叩き出し、経営陣のNGすらも成果を以て覆した

大橋:営業 兼 ひとりマーケティングという状態を脱するきっかけは何だったんですか?

月岡:2015年3月に、我々のSEOやコンテンツ制作に関するノウハウと技術をツール化し、より広くお届けしたいという想いから「MIERUCA(ミエルカ)」というプロダクトがリリースされたのは、大きなエポックでした。SEOコンサルティングは、コンサルタントの人数によって売り上げのアッパーが決まります。人的リソースの限界以上に売ることはできませんからね。ところが、ツールを作ったところまではよかったものの、当社には販売のノウハウも経験もなかったんです。以前、ツール販売の会社にいた私以外には……。

大橋:そこで月岡さんに白羽の矢が立った、と。

月岡:はい。当時のSEO業界では従来型の手法が使えなくなり、コンテンツマーケティングという概念が出始めていた頃でした。SEOには質の良いコンテンツが重要だと発信していた当社にとって、追い風が吹き始めていた時期でもあった。そこで、コンテンツマーケティングの大規模展示会に出展したいと提案したんですが、数百万円単位の出展コストに対して経営陣の納得感が得られず、またしてもNGになってしまって。

月岡:他社と共同出展でコストを折半することにして、何とか出展する許可を得て。私と取締役の2人が中心になって手づくりの出展ブースを仕上げました。結果的に、その展示会で1000件近く名刺を集めてリード獲得、商談獲得に成功することができました。これは、経営陣と対話するうえで大きな成果のひとつでしたね。「このリードをムダにせず活用するには、フォローのために無料セミナーをしなければならない」と説明し、ようやく無料セミナーが開催できるようになりました。

加えて、リードに対するフォローには、当時利用していた簡易なメール配信システムでは対応しきれなかったので、MAツールも導入しました。営業に加えてリードナーチャリングも兼務になり、なかなか大変な時期ではありましたね。

大橋:デマンドセンターのフレームワークで言えば、以前から貴社で行われていた有料セミナーのようにインバウンドの「PULL型」施策に加えて、コンタクトデータベースとリードナーチャリングの無料セミナー、その後のコンテンツ活用による「PUSH型」施策もできるようになっていった、ということだと理解しました。

インバウンドは「自分たち“に”興味がある会社」を相手にするものですが、アウトバウンドは「自分たち“が”興味のある会社」に向けた取り組みですよね。月岡さんは「その活動が会社にとってどれだけ意味があるのか」を、経営陣の見ている世界観にフィットするよう翻訳したり具体化したりして体現されていったという事ですね。2016年末にはでマーケティングの専任になりインサイドセールスチームを立ち上られげにも関わられたとか。

月岡:そうですね。当社の経営陣はコールの重要性に理解がありました。また技術オリエンテッドでも営業オリエンテッドでもなく、どちらも強い会社になりたいとの想いがあったんですね。まずはインターンによるインサイドセールス組織をつくろうという方向で進めていきました。

大橋:ちなみにマーケットワンでは「コンタクトベースドコール」「コールドコール」と呼んでいる手法があるのですが、前者は展示会やセミナーで獲得した名刺情報で相手の名前も電話番号も把握しているテレアポ、後者はリレーションがまったくない相手へのアプローチです。貴社のインサイドセールスではどんな業務されていたんですか?

月岡:インサイドセールスチームを立ち上げた後は、とにかく展示会に出て“リード数”の追求を大きな方針に掲げました。商談の絶対数を増やすことだけに集中するため、会場入り口すぐの角コマを確保し「MIERUCA」のロゴを見てもらって記憶してもらう……、というように、なんとなく覚えてもらえるだけでもいいといった思いで、ひたすら名刺の獲得枚数をメンバーには追ってもらいました。その意味で、大橋さんがおっしゃった「コールドコール」は、当社ではほとんど行っていませんでした。

月岡:当時、インサイドセールスチームは常時5〜10名が勤務する体制でした。展示会に年間5〜6回は出展し、私自身は最盛期にはセミナーに年間80〜90回近く登壇していました。2018年のAIバブルの頃には、3日間の展示会で10,000件近くのリードを獲得したこともあります。

大橋:そのリードを商談につなげていくまでのプロセスと、商談化率についても伺いたいです。

月岡:プロセスとしては、展示会やセミナーで獲得したリードに対し、インサイドセールスチームでターゲットの絞り込みを行い、営業が訪問するためのアポイントにつなぐ、という一般的なフローですね。2018年頃で言えば、営業チームが1カ月に訪問する商談のうち、約300件ほどがインサイドセールスチームからトス上げしたアポイントでした。展示会出展からの案件化でいえば、1回出展すると半年以内で50件程度の案件にはなっていましたね。直接的な案件獲得だけでなく、展示会やイベントに出展すると「MIERUCA」の指名検索数が増えて、インバウンドの問い合わせも増えていたんです。そういった副次的効果もありました

「最後は俺が売る」という想いで経営・営業・マーケティングの一体的連携を

大橋:独力で展示会出展やセミナー登壇を始め、インサイドセールスチームを立ち上げて……と、マーケティング活動を拡大されてきていますが、最初は苦難の時代があったのではないでしょうか。月岡さんの感覚的に、社内の風向きが変わってきたと感じたのはいつ頃でしたか?

月岡:2017年から2018年頃ですね。初めての展示会出展、リードフォローのセミナー実施を経て、2018年に「MIERUCA」の導入アカウントが1000件を突破したんです。ローンチから約3年、それはまさしく当社でマーケティング活動をスタートして、機能や組織を構築していった時期と重なります。この頃には、やろうと考えたことをすべてやらせてもらっていました。

大橋:やはり売上というかたちで、マーケティングの効果が明らかになったからでしょうか?

月岡:そう思います。そもそも私自身、マーケティングをやろう、組織をつくろうと考えて動いていたわけではなく、いろいろと並行して走らせていった結果、マーケティングの組織や仕組みができあがり、売上という成果につながったのだと感じています。

大橋:それは、月岡さんが成功された大きな要因のひとつですね。適切な順番で必要な機能や仕組みを構築されていったからこそ、きちんと売上拡大までつながっていったのだと思います。

また、マーケティングの専門家は、プロフェッショナルであるがゆえに、担う範囲や目的を見失ってしまうリスクもあるんですよね。「展示会で5000枚の名刺を集めた」「自社コンテンツが500回閲覧された」という結果はあっても、それが商談や売上に結びついていなければ意味がない。マーケティングのためのマーケティングでは仕方がなくて、きちんと売上や成果につなげなければいけないわけです。

大橋:その点、月岡さんはそもそも営業としてご入社されて、目指すゴールは常に売上を上げることだった。そこから逆算して必要な打ち手を考え、展開していくなかで、マーケティングを行っていかれたのかな、と。その結果、営業とマーケティングの間に妙な線引きや分離が生まれず、目的やゴールを共有できていたからこそ成功されたんだと思います。

月岡:どのフェーズにおいても「最後は、俺が売りに行く」という想いがありました。自分が一番全体を俯瞰して見ることができる人間だし、いまでも一番MIERUCAを売れるという自負はありますよ(笑)

共通言語と真摯な姿勢、領域を越境する気概で築く“信頼貯金”が成功の原動力に

大橋:時々、「経営陣や営業はマーケティングを理解しない」と口にするマーケターがいます。でも、マーケターにだって、経営陣や営業の思考や苦労はなかなか理解できない。目指すゴールが売上である以上、マーケティングはひとつの手段でしかなく、経営や営業の理解できる成果を出すことが大事だと考えています。経営や営業、マーケティングまで、横串を刺して機能する状態をつくりあげてきた月岡さんの目から見て、重要ポイントはなんだと思いますか?

月岡:私が考えるに、やはり「それぞれの立場で通じる言葉や数字で話すこと」「部門横断の越境に躊躇しない」の2点ですね。極端な言い方ですが「私はマーケティング担当なのでマーケティングしかやりません」なんて言っていたら、ハレーションしか起こりません。あくまでも私自身の話で言えば、営業が売れないなら自分で売りに行きますし、カスタマーサクセスもテレアポも全部やりました。

大橋:マーケティングの組織や仕組みを構築する重要なヒントですね。「経営や営業とマーケティングの両側面から物事を考えられること」「社内の共通言語でマーケティングを語れること」は、部門の垣根を越えて行くうえで不可欠な要素だと思います。さらに言うと、「月岡さんでない人間にも実践できる」という点も欠かせないと思います。唯一無二のスーパーマンがいて、その人でなければ成立しないメソッドでは、いずれ立ち行かなくなる時が訪れます。「属人化せず運用できる仕組みをつくること」も加えた3つを揃得られたことが成功の鍵になったのだと思います

とはいえ、貴社においてここまでの成果を出したマーケティング活動や組織を実現されてきたのは、ご自身の社内における「信頼貯金」があったから、というのも事実でしょう。営業、マーケティングを経て現在はプロダクトの管掌をされていらっしゃいますが、月岡さんの次なるゴールは何ですか?

月岡:現在、当社では“マーケティングゼロ”というコンセプトを掲げています。これからは、本当におもしろいコンテンツを、本当に必要としている人にきちんと届く世界を実現していきたい。それは、Webマーケティングの世界で“ライフライン”のような存在を目指すということであり、いつでもどこでも、何かしらのかたちでFaber Companyなり「MIERUCA」なりが関わっている状態を目指していきたいと思っています。公式YouTubeチャンネルを立ち上げるなどもそうですが、会社として新しい試みにどんどん挑戦していて、これからもその歩みを止めることなく突き進んでいきたいです。

大橋:月岡さんご自身の姿や取り組みから、マーケティングの組織や仕組みを構築していくプロセスや順番がとてもわかりやすく伝わったのではないかと思います。マーケットワンが考えるデマンドセンターのフレームワークとも親和性の高い、大変有意義な実践例をお聞きすることができました。本日はありがとうございました。

対談まとめ

「営業とマーケティングの協業」を目指しながらも、「縦割りサイロ化分業」状態に悩んでいる企業は少なくありません。今回の月岡さんのケースは、自らセールス役とマーケティング役を兼業するところから始まり、さらに経営に関わるようになっていきます。結果として、CMO(Chief Marketing Officer)、CGO(Chief Growth Officer)のような役割を担う姿になり、変化をもたらす原動力となりました。部門や役割の枠を超えて現場起点で動くチェンジエージェントが、組織変革においては非常に重要だという事を示唆する事例ではないでしょうか。

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プロフィール

月岡 克博
株式会社Faber Company 執行役員 エグゼクティブマーケティングディレクター
SFA、CRMのコンサルタントや営業を経験後、2014年にFaber Company入社。営業部門のマネージャーを務めるかたわら、自らセミナー登壇などを担いマーケティング部門の組織構築と拡大を推進した。現在は、同社が提供するコンテンツマーケティング・SEOの自動化ソフトウェア「MIERUCA(ミエルカ)」シリーズの機能開発を含めたプロダクトオーナーも兼務。2021年10月に執行役員就任。
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大橋 慶太
マーケットワン・ジャパン合同会社 執行役 ビジネス開発管掌
BtoB企業のマーケティング・コンサルティングに15年以上従事。大手製造業向けに、マーケティングを軸にした新規事業探索、デジタルトランスフォーメーション等の戦略立案と実行支援のアドバイザリ役を務める一方、日本におけるマーケットワンの事業開発を管掌する。日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構BtoBマーケティング委員会の副委員長

Text:Aki Kuroda
Photo:Takumi Hatano
Edit : Tomoko Hatano