現代においては多くの企業でマーケティング施策は重要な取り組みとなっており、BtoBにおいても例外ではありません。しかし、商品単価の高いBtoB領域では、「成約数 = 成果」とされるBtoC領域とは異なった考え方が求められます。
筆者はBtoCマーケティングでのデジタル広告運用を経験したのち、マーケットワン・ジャパンへ入社し、現在はBtoBのマーケティングに携わっています。
本稿はそんな筆者の経験も踏まえ、BtoCとの比較論を切り口にして、BtoBにおいて「自社に貢献するマーケティング施策」 を行うための考え方について解説します。
目次
「BtoB vs BtoC」それぞれの購買プロセスの違い
筆者自身、BtoBへの転身直後は誤解していたのですが、そもそもBtoBとBtoCでは見込み顧客の購買プロセスが大きく異なります。まず、BtoCにおける購買までの流れですが、BtoCで扱う低単価の商材は「購入者 = 最終決裁者」であるケースが大半で、商品購入の意思決定も衝動的に判断される傾向があります。
そのため、筆者がBtoCの広告運用でユーザーへのアプローチ方法について考える際には、消費者の購買プロセスモデルであるアイドマ(AIDMA)の認知・興味・欲求・記憶・購入などのシンプルな要素から検討していました。BtoCでは、このモデルに基づくマーケティング活動のみで成約(購入)まで繋げることが可能です。
一方で、BtoB領域においては商談サイクルが長くなるのが一般的で、担当者だけでなく、組織全体の合理的な判断を経てはじめて受注に至ります。
必然的に検討期間が長くなってしまうため「BtoCとは異なるアプローチが必要」だと、参入直後に痛感することになりました。
もちろん、BtoCであっても自動車や不動産といった高単価の商材であれば、購買プロセスがBtoBのように長くなるケース自体はあるでしょう。
しかし、BtoBではマーケティングだけで成約に至るケースは“ほとんど存在しない”ため、マーケティングがリードを獲得した後、リード・ナーチャリングを行ってから案件を営業にパスするプロセスが求められます。
BtoBでは、このようなリード発掘から成約に至るまでの一連の流れを「デマンドジェネレーション」と呼称します。デマンドジェネレーションの基本的な考え方については同ブログ内の「BtoBのデマンドセンターとは?今こそ顧客志向の仕組みづくりが必要な理由」で解説していますので、合わせてご参照ください。
BtoBの施策ではマーケティング・営業間の連携が重要
BtoCと比較した場合、BtoBにおけるマーケティング施策は“営業なしでは完結しない”という特徴があります。前述の通り、BtoCでは営業が商談プロセスに組み込まれていなくても、マーケティングのみで成約まで繋げることが可能です。
一方で、BtoBにおいては「日本企業でセールスマーケティングアライメントが浸透しづらい理由とその解決策は?」の記事でも解説した通り、施策で成果を出すための「部門間連携」が必須となります。
BtoBのマーケティングで全体戦略を立てるためには、リードジェネレーションだけでなく、その後のナーチャリング/クオリフィケーションの工程まで視野に入れる必要があります。この戦略立案のタイミングで懸念されるのが「顧客接点を持たないマーケティングが独自に描いたカスタマジャーニーが“絵空事”に終わる」ことです。
BtoC出身者である筆者にとっては、この全体工程の長さが、戦略策定の際に大きな課題となりました。
その打開策として、筆者は“マーケティングとして”社内で最も顧客を理解している営業と連携をとり、事前に顧客情報について把握するように努めました。
自社ビジネスの規模・ステージによって、営業から求められるリードの質・量も異なってくることも踏まえて、扱う商材ごとに部門間で目線合わせを行うことが課題解決につながったのです。
BtoBにおけるマーケティングで獲得できるリードは「8割が潜在、2割が顕在層」と言われ「マーケティングが実際に獲得できるリード」「営業が期待しているリード」では質・量ともに乖離があります。
そのため、BtoBで施策を実施する際には、「どういったタイミングで、どのようなリードを連携するのか」について、あらかじめ営業の期待値を調整する必要があると学びました。
BtoBのマーケティング施策で必要な事前準備
以上のBtoCとの違いを踏まえて、筆者は現在、BtoBにおけるマーケティング戦略を策定する際には以下の3段階の事前準備が必要であると考えています。
準備1. ペルソナ/セグメントの設定
筆者がBtoCで広告運用を行っていた当時は、ペルソナについて考える際に、個人レベルの興味関心・性別などから「理想像」を紐解いていました。しかし、BtoBでは「理想の個人」の意味合いは「自社の“ターゲットとする企業”に勤務し、“特定の部門”に所属している“個人像”」となります。
BtoBでは、施策のターゲットとなる“ペルソナ像”には多くの意味が内包されますので、建設的な議論を進めるために「ペルソナが何を指しているか」についてあらかじめ定義しておく必要があるのです。
マーケットワンではBtoBのペルソナを、企業版ペルソナと呼ばれる「ICP(Ideal Customer Profile)」、購買の意思決定のプロセスに関わるメンバーである「DMU(Decision Making Unit)」、デモグラフィックとサイコグラフィックで定義された架空の顧客像「ペルソナ」の3要素で捉えることを推奨しています。
この3要素によるペルソナ定義のメリットは、営業と連携して施策のターゲティング設定をしていく際に「どういった層にアプローチするのか」についての認識合わせがしやすいことです。
ペルソナ設計方法について、詳しくは「3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計」で解説していますので、合わせて参考にしてください。
前述したように、BtoBでは「マーケティングで獲得したリード」「営業の期待するリード」でミスマッチが発生する可能性も懸念されます。それを未然に防ぐためにも「どういった企業群やペルソナからの受注が多いか」といったインサイト情報についても、あらかじめ営業と共有する必要があります。
BtoCを主戦場としていた筆者にとって、この部門間の垣根を超えた他部門との連携について「一朝一夕では実施できないのではないか」との懸念がありました。
この対策としてマーケットワンでは、実際のマーケティング施策を行う前提で、ペルソナ設定のためのワークショップを営業・マーケティング間で実施しています。これにより、筆者が参画したプロジェクトでも「情報の連携が必要」との暗黙知が醸成済みで、実務上の連携がスムーズに果たされました。
準備2.リードの質の定義
BtoBマーケティングでリードについて考える際には、「どの程度の数のリードを獲得するのか」という“量”だけでなく、「どのようなリードを獲得するのか」という“質”についても事前に定義しておくことが求められます。
一方で、マーケティングとしてはMQL(Marketing Qualified Lead)の“量”を積極的に獲得したいにも関わらず、営業が承認できるだけの“質”をもったSAL(Sales Accepted Lead)に至らなければ意味がないというジレンマがあり、筆者自身おおいに悩まされました。
効率性でいうと、営業がフォローできる数を追い求めた方が望ましいのですが、マーケティング的には短期の営業売上ではなく、中長期のバランスも見なければなりません。
同ブログの過去記事「どの企業にも当てはまる「BtoBマーケティング」は存在しない」でも解説されている通り、BtoBにおいて普遍的なプランの策定は不可能です。そのため、自社ビジネスに即したリードを定義しなければ、“無駄に広告費を投下するだけ”という結果に終わってしまいます。
マーケットワンでは、広告運用を行う際には基本的な指針として「短期的に案件にならなくても良い」と掲げ、 SAL転換率のみでなくMQL数も重要と捉えています
準備3. コンバージョンポイントの設計
筆者はBtoCの広告運用では「コンバージョンポイント」の設定を重要視していましたが、それ自体はBtoB領域においても同様です。
マーケティング施策では、見込み客の段階に合わせたコンテンツコンバージョン設定を行い、見込み顧客確度を見積もることは成約率を上げるためには必須となります。一方で、BtoBにおけるコンバージョンポイントは容易に調整できるものでもありません。
BtoCでは「コンバージョン=購入」となるケースが多く存在しました。低単価の商材なら、広告経由でLP(ランディングページ)にはじめて訪れたユーザーであっても「キャンペーン、セールの最中だったので、なんとなく」という理由で購入に至る場合もめずらしくありません。
しかし、高単価な商材を扱うBtoBでは、検討の初期段階でLPに訪れた見込み顧客が“いきなり問い合わせをする”ケースはほとんどないのだと、筆者はBtoBへの参入から程なくして気付かされました。
短絡的に「問い合わせ」 をコンバージョンポイントにしてしまえば、大きな機会損失に繋がってしまいかねないというリスクが、実際に戦略を策定する際の懸念点として浮上したのです。
単価が高いBtoB商材では、問い合わせから商談につながるのは検討期間の後半になります。
そのため、広告運用の開始時点から短期での問い合わせや商談を目指すのではなく、検討期間の序盤にアプローチするために「資料/ホワイトペーパーのDL」といったハードルの低いコンバージョンポイントを設ける。その上で、見込み顧客と段階的にコミュニケーションを取り、関係性を構築した上で問い合わせや商談につなげることが求められました。
この際、「どの段階にいる見込み顧客にアプローチするのか」によって、そのコンバージョンとなるコンテンツの選定も必要です。
例えば、ホワイトペーパーのDLをコンバージョンとした場合、自社サービス・製品のアピール情報ばかりを盛り込むと営業色が強くなってしまいます。それにより、サービス導入を現実的に検討している顕在層の中でもTopレベルで確度の高い見込み客に絞られてしまい、結果的に獲得できるコンバージョン数が少なくなってしまうと予想されます。
かといって、用語解説のような一般的・抽象的な内容に寄り過ぎたコンテンツでは、コンバージョンしてくる見込み顧客の確度は低くなってしまい、長期的なナーチャリングが必要になったり、営業もフォローしなくなったりするでしょう。
さらに、コンテンツの中身だけでなく「切り口(広告文やバナーなど)」「見せ方」次第で、想定とは異なるターゲットや見込み確度の異なる顧客からのコンバージョンに繋がります。
それらを踏まえ、自社で設計したペルソナに適切にアプローチをかけていくために、コンテンツポイントはもちろん、コンテンツ内容や切り口といった細部に至るまで、前述した営業との連携を行いつつ調整していきました。
BtoBにおけるマーケティング施策は「結果 = 成果」ではない
以上の通り、BtoBマーケティングは全体工程が長く、事前に求められる準備事項も複雑であるため、BtoC出身者である筆者にとっては大きなカルチャーショックでした。
とは言え、実際のマーケティングの現場では、そこまで事前準備を行ったとしても望んだ結果が得られない可能性もあるでしょう。
筆者が過去に行ったマーケティングプロジェクトのなかには、SAL率を意識した結果として営業のフォロー率は高くなったものの、特定のチャネルが機能しなかったためにMQL総数が想定よりも少ない結果に終わったプロジェクトがあります。
この際、筆者は全社的に「機能しないとわかったことが成果」言われました。つまり、「結果=売上」となりがちなBtoCと比較して、BtoBマーケティングにおいては、当初描いた“結果”だけが必ずしも“成果”であるとは限らないのだと学びました。
上記の事例では、結果としてマーケティングが中長期のナーチャリングで案件化を狙えるリードの母数は少なくなっています。一方で、営業としては短期で商談に繋がりやすい、質の高いリードの獲得ができたことが「成果」となるのです。
MQL総数が想定より少なかったとしても、実際に案件を取れていれば企業としてはメリットがあります。
そもそも、施策を実施する際には部署ごとの思惑も絡んできますので、プロジェクトを推進するにあたっては「実際に出てきた数値に対してどのように意義づけを行うか」が重要です。
想定通りの結果が得られなかったとしても、それを何らかの成果に繋げられるかどうかは“マーケティングとしての腕の見せ所”とも言えるのではないでしょうか。
マーケティングが主体的に部門間連携を行い、施策結果がMQL数やSAL転換率といった定量のみで評価されないように期待値調整をする。その上で、施策の意図について理解を得ておけば、たとえ当初描いた“結果”に繋がらなかったとしても、“成果”を得られる「BtoBマーケティング」が可能となります。