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なぜマーケティング活動においてDXが求められるようになっているのか?
昨今はデジタル化の波に加え、コロナ禍におけるリモートワークの浸透で、顧客の情報収集のデジタル化が進んでいます。マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)が公開しているサーベイを参照((『Survey: Japanese B2B decision maker response to COVID-19 crisis | September 2020』を参照))すると、購買における「①新規取引先のリサーチ→②その検討と評価→③取引開始→④再注文」の各プロセスにおいて、ほとんどの顧客が対面商談よりもオンラインでの情報収集を優先するようになっているとわかります。
McKinsey & Company:Survey: 『Japanese B2B decision maker response to COVID-19 crisis』| September 2020 をベースにマーケットワンで作成。
URL: https://www.slideshare.net/McK_CMSOForum/mckinsey-survey-japanese-b2b-decision-maker-response-to-covid19-crisis-238385203
このような顧客ニーズの変化に対応するため、製品・サービスを提供する企業側にも、マーケティング・営業領域において顧客接点のデジタル化を行うデジタルトランスフォーメーションが求められるようになっています。
営業プロセスや顧客情報の仕組み化にあたっては、情報の電子化が必要なため、各部門の業務内容や管理項目に関して体系的に整理を行い、標準化しなければなりません。
欧米では、認知獲得や顧客育成を行う「デジタルマーケティング」や、リードの絞り込みを行う「インサイドセールス」を効果的に活用する分業体制の定義・構築が日本に先行して行われてきました。日本企業においても、欧米ですでに一般的となっている体制を構築するため、営業部門が顧客との関係構築から受注までをカバーする従来型の営業プロセスを見直す必要があります。
上図のように、マーケティングの各フェーズにおいて、オンライン・オフラインを問わず顧客接点の管理を行い、営業活動を可視化するためには、MAやSFA/CRMといったデジタルツールを導入・連携が効果的です。
BtoBマーケティングにおいても有効な武器となるMA
BtoBにおいても、MA(マーケティングオートメーション)はリード獲得や絞り込みのためのデジタルマーケティングにおいて効果的な武器となります。MAは見込み顧客を管理するためのマーケティングデータベースであり、メールやLP(ランディングページ)を用いたコンテンツ配信を通じて、デジタル上で顧客との接点を構築可能です。
MA導入を先行して実施しているのはIT業界ですが、製造業などで導入が進んできており、MAの活用に成功した企業はリード獲得だけでなく、デジタル経由での市場ニーズの把握などもできます。
さらに、MAを営業部門などが管理するSFA/CRMなどのツールと連携させれば、「オフラインの営業活動」「オンラインでの顧客接点」を包括的に把握でき、有望な見込み顧客を絞り込むためのプロセスの自動化も実現します。
ツールの連携を通して、部門間のコミュニケーションが上手く取れれば「従来は営業アプローチできていなかった顧客からの引き合いが出た」「思ってもみなかった会社・部門から反応があり、市場の声を製品開発に反映できる」など、営業・開発部門から前向きな声が挙がるケースもあります。
MA導入を検討する企業は増えている一方、多くの企業が導入につまずいているのは何故か?
営業プロセスの再構築を行うためには、各部門が個々に業務のやり方を変えるだけでなく、社内での役割といった組織構造そのものを変える、部門間を跨いだ活動が必要になるため、経営トップのコミットメントが求められます。これについては、経済産業省の 『DXレポート2 (中間取りまとめ)』でも以下のように言及されています。
“こうしたツールの迅速かつ全社的な導入には経営トップのリーダーシップが重要。企業が経営のリーダーシップの下、企業文化を変革していくうえでのファーストステップとなる” ((経済産業省:DXレポート2 (中間取りまとめ)より引用))
各部門の足並みが揃っていない状態でツールの導入だけを進めてしまうと、前述のようなシナジーは得られず、 「MAを導入したもののなかなか成果が出ない/見えない」といった状態に陥ります。MA導入を成功させるカギは、「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」の各顧客との接点を担う部門同士が、相互に戦略・施策を連動させることです。
部門間の“壁”を取り除くためのセールス・マーケティングアライメント(連携)
前述の通り、MAを効果的に活用するためには、マーケティング部門が創出した見込み顧客(リード)の情報を、次工程であるインサイドセールスや営業にシームレスに受け渡す仕組みの構築が必要です。
顧客の購買行動に沿って顧客対応する担当者を別部門へ引き継ぐ際、部門間の連携が取れていないと、マーケティングで創出したリードがフォローされない場合があります (上図青部分)。
加えて、情報を蓄積するためのシステム構築の際に「MAはマーケティング部門が主導し、CRM/SFAは営業部門が導入する」といったように、各部門が個々にツールを導入すると、システム上で上手く情報共有がされない弊害が発生しかねません。 (上図緑部分)
組織内変革を図る際に発生する部門間連携における課題については「セールス・マーケティングアライメント (連携)」との論点で、日本だけでなく世界中で議論されています。海外では日本以上に議論が進んでおり、MAを活用する上で、セールス・マーケティングアライメントに必要なベストプラクティスが体系化されつつあります。
しかし、海外で述べられているセールス・マーケティングアライメントに向けた理論は、営業・マーケティングの両部門で戦略をすり合わせた上で、包括的に共通したファネル・プロセスを設計できることが前提となる点には留意しなければなりません。
部門間のアライメント成功させるためには、営業プロセス全体の「あるべき姿」を実現するため、以下のステップを踏む必要があります。
Marketo:『Jumpstart Revenue Growth with Sales and Marketing Alignment』 をベースにマーケットワンで作成。
URL: https://www.marketo.com/ebooks/jumpstart-revenue-growth-with-sales-and-marketing-alignment/
欧米とは異なる固有文化を持つ日本企業でアライメントを成功させるために
MAを先行してマーケティングに活用している欧米と比較して、日本のBtoB企業、特に製造業などでは企業文化的な側面から営業プロセス全体の再設計に課題を抱えています。
以下より、欧米のベストプラクティスを参考にしつつも、伝統的に固有の文化を持つ日本企業において、セールス・マーケティングアライメントを進める際に把握しておくべき要素を3つ解説します。
1.発言力が強い日本企業の伝統的な「営業」
欧米では「部門ごとの役割が明確である」「雇用も流動的である」などの理由から、営業プロセスが社内で標準化されているのが一般的となります。そのため、MA導入で必要な部門間を跨いだ活動のためのルール作りを行いやすい土壌が整っているのです。
一方で、日本企業では伝統的に営業部門の業務内容に“マーケティング的な”役割が内包されているケースが多くあります。そのような風土の中で、雇用の流動性が低いため、業務自体が属人的になりやすいのが特徴です。
「日本企業はマーケティング部門がない」などの声もありますが、正確には「ない」のではなく、「営業」の概念が広義であるため、伝統的に営業部門がマーケティング機能も内包しているというのが正確な捉え方です。これに関しては、2016年にビジネス&アカウンティングレビューの中でも、以下のように指摘されています。
“「良いものを作れば売れた」かつての高度成長期は商品企画志向が強く, 営業は開発, 製造された製品を販売する限定的な役割であったが, やがて成熟社会に入り, 営業は各部門をプロデュースする存在として位置づけられ, そしてバブル崩壊を経て,「モノが売れない」と言われる時代において,「売れなければ始まらない」企業活動の生命線を担う営業部の発言力はさらに増していると思われる。” ((Business & accounting reviewに掲載された論文『「営業」とMarketing & Salesとの関係』より引用))
そのため、日本では「営業」「マーケティング」部門が分かれている企業であっても、両部門の責任範囲が曖昧なケースが散見され、MAを活用するための営業プロセスの再構築で重要な部門ごとの役割分担が難しい場合が多いのです。
さらに、前述の論文の引用部分でも言われている日本企業における「営業部門の発言力の強さ」が、マーケティング部門から見ると、部門連携をさらに難しくする要因にもなっています。つまり、社内改革のための土壌が整っている欧米に対し、日本の場合は“まだ何も整っていない段階”であると言えるのです。
2.社内におけるプロダクト視点とアカウント視点のギャップ
製品企画や開発、それに基づいたマーケティングは、“売れる製品”を作ることに主眼が置かれているため、「プロダクト(製品)をどのように売るか?」との視点で行われると言えます。
一方、営業現場においては「アカウントにどのように売るか?」がミッションとなります。そのため、極論を言ってしまえば、全体で目標予算の達成さえできれば、特定の製品が売れなくても問題視されません。
日本企業では、このような「プロダクトセリング」「アカウントセリング」のギャップを埋める機能を有していない存在しない企業も多く、部門間アライメントの妨げとなります。
3.営業・マーケティング部門以外も連携が必要なMAの配信プロセス
MA配信のプロセスでは、営業・マーケティング部門だけでなく、以下のように社内の各部門の連携が必要になります。さらに、一連のプロセスで外部ベンダーを活用している場合は、社内だけでなくベンダーマネジメントも行わなければなりません。
プロジェクト推進に関わるステークホルダーが増える分、各部門から挙がる声を汲み取りつつ、「全体最適 vs 個別最適」のバランスを取りつつ複雑な全体設計を行う必要があります。さらに、日本企業ではMA配信に関する部門ごとの役割分担が明確でない場合も多く、アライメント実現の難易度をさらに上昇させています。
おわりに
昨今はプロダクトを提供する企業側だけでなく、顧客側も「オンラインで情報を収集したい」とのニーズが高まっているため、営業プロセス全体を再定義する必要性はさらに高まっていると言えます。
企業組織でMA推進を進める場合、前述したような日本企業固有の課題をクリアし、マーケティング・営業をはじめとした複数の部門間で共通理解を形成しなければなりません。これがネックとなり「MA導入がなかなか進まない」と、頭を悩ませている企業が多いように感じられます。
マーケットワンでは、そういった課題を解決するための打ち手としてワークショップの開催を推奨しています。詳しくは以下のホワイトペーパーにて解説していますので、こちらもご参照ください。
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