本ブログの読者の方はマーケティング担当者が多いと思われますが、日々のマーケティングキャンペーンにおけるメインの活動として「メールマーケティング」が重要な位置をしめている方が多いのではないでしょうか。
マーケットワンでもお客様のさまざまなマーケティングキャンペーンのプロジェクトに携わるなかで感じることは、プロジェクトの進捗に伴ってデータベースの規模は増加し、メールの配信総数は増えていく。その一方で、基本的にはデータベースの配信先“全件”に対して、単一のメールを配信しているケースがほとんどであるという点です。
メール受信者の関心や嗜好は一人ひとり異なるため、画一的な内容のコンテンツ配信が続くと、お客さまからの良い反応を継続的に得ることは難しくなっていくでしょう。
そこで今回は、ワンパターンになりがちなメール配信の課題に対して、配信先からのコンバージョンを上げていくうえで、有効な手段となり得るメールの「パーソナライゼーション」について解説します。
目次
なぜメッセージの差別化が必要なのか?
今日のマーケティング活動においても、依然としてメール配信は最もROIが高いマーケティング施策です。
出展:https://thewebappmarket.com/simple-ways-to-build-an-email-marketing-list/
しかしながら、日々大量のメールがメールボックスに届く現代のビジネスパーソンにとっては、すべての受信メールを確認するのは労力を伴う作業ともいえます。
米Benchmark社のレポート((BENCHMARK「Email Marketing Benchmarks By Industry and Region」https://www.benchmarkemail.com/email-marketing-benchmarks/ ))によると、業界によって差は多少あるものの、メールのオープン率は平均23.01%であると報告されています。
詳細は割愛しますが、メールクライアントによってはINBOXに入った瞬間に開封を計測してしまうものもあり、実際には能動的に開封している数はもう少し低いものと認識したほうがよいでしょう。つまり、そもそも“まずメールを開いてもらう”ことが難しいのです。
では、一人でも多くのお客様に自社のメールを読んでもらうためにはどうすべきなのでしょうか?
大きく分けると、以下の2つが考えられます。
- ハウスリストの数を増やし、配信母数を増やすこと
- 1メールあたりのコンバージョン率をあげること
配信母数を増やすことは、プラットフォームのセットアップの初期フェーズならともかく、マーケティングオペレーションが成熟してくるとそう簡単にリスト総数は増えません。
したがって、「いかに既存のリスト内のメール配信先に対してメールを読んでもらうか?すなわちコンバージョン率をあげること」に着目する必要があります。次項より、その観点からメールのパーソナライゼーションについて述べていきます。
パーソナライゼーションメールとは?
現代においては、スマートデバイスなどの拡がりで情報取得のチャネルおよび情報量が増えたため、マスマーケティングとしての一律なメッセージングは顧客へ刺さりづらくなっています。
そのため、企業側で顧客情報をセグメンテーションし「今あなたが求めている商品・サービスをご案内しています」というアプローチの重要性が増しています。
メールのパーソナライゼーションとは、「データベースの情報から特定の顧客層をセグメンテーションし、その顧客層に最適化されたEメール配信を実施すること」です。
これにより、全セグメントへ“同一”のメッセージを“一律”に配信する従来型のマーケティングキャンペーンと比較して、高いコンバージョンが期待できます。
マーケティング担当者なら経験があるかと思いますが、大量の受信メールにおいて、メールのコンテンツに「自分の宛名が入っている」「見知った担当者からのメールである」「自分が加入しているサービスのステータスに応じた特別な案内などが感じ取れる」。 そのような状況においては、他のメルマガに比べてメールを“つい開封する”確率が高くなってしまうはずです。
これはメールがあなたに“パーソナライズ”されており、配信元のデータベース内であなたの属性情報に応じて、メールコンテンツを動的に切り分けているためです。
では、何をもって企業は会員をセグメンテーションしたのち、パーソナライズしているのでしょうか? 一般的なマーケティングでは、顧客データを分けるセグメンテーションの切り口は以下4つのパラメーターが用いられます。
種類 | 例 |
デモグラフィック(人口統計学的属性) | ユーザーの性別、年齢、在住地域、学歴、職業、所得など |
ジオグラフィック(地理学的属性) | デモグラフィックと同じ在住地域を含み、その他に地域特有の気候、人口密度、文化、都市化の進展度など |
サイコグラフィック(心理学的属性) | ユーザーの価値観、信念、趣味趣向、購買動機や商品の使用頻度など |
ベヘイビオラル(行動学的属性) | ユーザーのWebサイトへのアクセス、インターネット使用時間、商品購買履歴、行動範囲など |
デジタルマーケティングにおける顧客分析・セグメンテーションでは、デモグラフィック、サイコグラフィック、ベヘイビオラルが中心です。メール配信においても、こういった属性情報を用いてパーソナライゼーションを実施していくことになります。
以上を踏まえたうえで、「パーソナライズされたメール」の条件について紐解いていくと、パーソナライゼーションの戦略を考案するにあたっては、以下の3点が重要な要素となるでしょう。
- 配信コンテンツと顧客の興味に関連性があること (Relevant)
- 配信情報がタイムリーであること (Timely)
- “人”から配信されること (Comes from a person)
参考:CampaignMonitor 「The Power of Email Personalization to Reach Humans (Not Just Inboxes)」
3のComes from a personについて補足すれば、「誰から受信するか?」は受信者の感情による判断の側面もあります。
しかし、それを差し引いても、基本的には「ライトタイミング・ライトコンテンツ」で顧客が求めている情報を、適切なタイミングで配信することがメールパーソナライゼーションといえるでしょう。
パーソナライゼーションの効果
パーソナライゼーションがマーケティングパフォーマンスに与える影響を調査した米Epsilion社のレポート((Epsilion「New Epsilon research indicates 80% of consumers are more likely to make a purchase when brands offer personalized experiences」https://www.epsilon.com/us/about-us/pressroom/new-epsilon-research-indicates-80-of-consumers-are-more-likely-to-make-a-purchase-when-brands-offer-personalized-experiences ))では、オンライン調査に参加した消費者の実に80%が「パーソナライズされた体験を提供する企業と取引をしたい」と回答。また90%が、パーソナライゼーションされた体験に魅力を感じていると答えています。
このことからもユーザーが“より自分に最適化された”体験を求めていることは確かだといえます。米Campaign monitor社のレポート((Campaign Monitor「The Power of Email Personalization to Reach Humans (Not Just Inboxes)」https://www.campaignmonitor.com/resources/guides/personalized-email/ ))によると、通常のマーケティングキャンペーンと比較し、オープン率やクリックスルー率が顕著に改善したと、以下のとおり報告されています。
- 件名に受信者のFirst nameを挿入することによって、オープン率が26%改善した
- 受信者のロケーションによってメール内に表示する画像をパーソナライズしたことにより、クリックスルー率が29%改善した
さらに、米Hubspotの統計((Hubspot「Personalized Calls to Action Perform 202% Better Than Basic CTAs [New Data]」https://blog.hubspot.com/marketing/personalized-calls-to-action-convert-better-data#sm.000awoxgniktcoi11jl2et1nit4os ))によると、「①全読者へ一律に同じCTAを設置した場合」「②読者によってCTAをパーソナライズした場合」とでは、②は①に対してコンバージョンが202%向上したというデータもあります。
このような事例からも、パーソナライズされたメールはコンバージョンの改善に大きく寄与することは自明といえるでしょう。
なお、 <後編>マーケティングオートメーション(MA)の活用で知っておきたいメルマガ配信における重要指標の記事ではメール配信で留意しておきたい重要な指標について解説していますので、合わせてご参照ください。
マーケティングオートメーションはパーソナライゼーションにどう寄与するか?
マーケティング活動におけるメール配信はMA(マーケティング・オートメーション)の活用が効果的です。では、MAはメールのパーソナライゼーションにおいてどのように貢献するのでしょうか?
「データの組み合わせ方」によって可能なことは多岐にわたりますが、今回は以下4つの例をユースケースとして紹介します。
- 項目差し込み設定(フィールドマージ)
- 差出元の出し分け(署名ルール)
- コンテンツの差し替え(ダイナミックコンテンツ)
- 送信時間最適化(Send time optimization)
※括弧内はOracle Eloquaの機能名
以下に記載する機能に関する一部の単語は、弊社のマーケティング活動で主に使用しているOracle Eloquaをベースとした説明となります。弊社では主要MAツールのサポートをしていますが、基本的にはどのシステムでも同様のことが実現できます。
1.項目差し込み設定(フィールドマージ)
データベース内の個人の持つ項目情報を、メールに“変数として”挿入し、動的に切り替える機能です。
たとえば、手打ちでメールを打つときには文頭に「〇〇様」と顧客の名字を書くと思いますが、この〇〇にあたる部分をデータベースから代入している形になります。
メール本文への挿入はもちろん、メールの件名への挿入も可能です。本文と同様に名前を挿入するだけでなく、顧客の興味関心の項目が適切に取得できていれば「〇〇様へ〇〇のご案内」などの情報も挿入でき、開封率を上げられるでしょう。
2.配信元(名前・件名の出し分け)の差し替え(署名ルール)
「あまり馴染みのない会社名から来たメルマガはスルーしてしまうけれども、個人名で受信したメールのほうが目に留まる」といった経験をされた方は、少なくないはずです。
近年は、「担当者名 + 会社名」という差出人名も目にする機会が多くなっています。他の配信メール同様、MAからメールを一斉送信しているのですが、会社名単独よりも営業担当者が個別にフォローしているように、受け手の印象は変わるはずです。
こちらは署名ルールという機能を使用することで、ダイナミックに送信元名を切り替えることができます。例えば、リージョンのデータや営業担当者が各コンタクトに紐づいていれば、トリガーフィールドの値ごとに規定された送信元名、送信元アドレスでコンタクトにメールを送ることができます。
3.コンテンツの差し替え(ダイナミックコンテンツ)
こちらは特定の条件に基づき、ユーザーごとに表示させる画像やテキストなどのコンテンツを差し替えられる機能です。コンテンツの差し替えに関するユースケースとしては、以下のようなものがあげられます。
- 特定のリージョンごとにコンテンツを出し分ける
(例) 複数箇所で開催するイベントで、前段の基本的なメール文面は同じだが、特定のモジュールで国や都道府県など、ユーザーが所属するリージョンを示すフィールドをトリガーにする。そのうえで、リージョン固有のコンテンツ(画像、テキスト、URLなど)を指し込む。
- ABMキャンペーン実施時など特定の会社に対して特別なコンテンツを差し込む
(例)コンタクトに対してアカウントデータ(取引先データ)が紐づいている場合、特定のアカウントのコンタクトに対してのみ、特別なキャンペーンコンテンツを表示させる。
出典:ORACLE Eloqua Help Center_Dynamic content examples
4.送信時間の最適化(Send time optimization)
配信する時間帯もオープン率に影響を与える要素となります。実際、メールの配信時間によるコンバージョンの検証でABテストを実施する機会は少なくないはずです。
ただし、厳密には業界や役職によっても適切な配信時間帯は異なります。朝一でメールに目を通す方もいれば、夕方に仕事が一通り終わって余裕があるタイミングで確認する方もいるでしょう。
統計的にメールが読まれやすい時間帯というものは存在しますが、こういった情報をそのまま鵜呑みにしてしまうのは大変危険です。
MAでは、AIを使ってデータベースの各コンタクトに対して、“最適化されたタイミング”での配信ができます。 例えばEloquaでは、各コンタクトが通常メールを開封する1時間前に自動的にメールを送信する「Send time optimization」という機能があります。
過去のメール開封履歴をMAがデータとして蓄積することで、その履歴から機械学習を行い「このコンタクトにはいつ配信するのがベストか?」と自動的に算出。メール配信を実施します。
これにより、コンタクトレベルでの送信時間の最適化が可能になるため、一斉送信で同じ時間帯に送るよりもさらに高いオープン率が期待できるでしょう。
良いパーソナライゼーションは良いデータから
メールパーソナライゼーションはマーケティングキャンペーンにおいて非常に強力な武器となり得ます。ただし、改めて申し上げたいのは、パーソナライゼーションを実現するためには、定義化された「データ」があるという点です。
BtoBデジタルマーケティングでデータドリブンを支えるための着眼点でも解説しましたが、パーソナライゼーションに限らず、データドリブンでのマーケティングを推進するためには組織内で「活用できるデータ」を保ち続けることが前提となります。
「Garbage in, garbage out」という言葉があるとおり、データベースの整理整頓ができていなければ、そこから“価値あるアウトプットが生まれ得ない”のです。
それを踏まえると、「この顧客層向けにこういったキャンペーンを実行したい」というアイディアの発案と同時に、「それを実現するためにはどのようなデータが必要なのか?」と逆算して考える必要があります。
顧客志向の施策を実現する過程に近道はありません。千里の道も一歩から。まずはマーケティング戦略において必要となるデータの定義化など足元の地固めから始めましょう。
セグメンテーションにおける「どういった項目が必要なのか?」「その項目内はどういった値のリストで構成され標準化されるべきか?」といった、リードプロファイリングの重要性についてはBtoBマーケティングでデータ活用の起点となる「リードプロファイリング」の概念を解説で紹介していますので、合わせてご参照ください。
メールマーケティングをより効果的にするためには、 MAを使用したパーソナライゼーションでワンパターンのメール配信に変化を加え、お客さま視点で最適なメッセージを届けることが重要となります。