近年、急速なデジタル化が進み「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「営業のデジタルシフト」「データドリブン」などのキーワードがビジネスシーンで用いられるケースは増えています。
それに伴い、さまざまなデジタルマーケティングツールが登場していますが、BtoBマーケティングにおけるデータ利用が抱える問題でも述べている通り、BtoBで注目するべきは最新のツールではなく「データ」そのものと言えます。
実際、多くの企業でデータ活用のあり方が問題となっており、企業の社内変革をサポートするマーケットワンでも「自社のデータが整っていないため、使い物にならない」との悩みを頻繁に耳にしています。
そこで本稿では、製造業でのプロダクトマーケティングの経験がある筆者の知見も交えつつ、BtoBのデジタルマーケティングにおいて「活用できるデータ」を保ち続けるために必要とされる考え方について論考します。
時系列から考えるデータ活用の仕組みづくり
筆者は製造業でプロダクトマーケティングに従事していましたが、担当製品で不具合が生じる状況にどうしても直面してしまいます。
クラウドのソフトウェア製品であればアップデートをすれば不具合が解消する場合もありますが、ハードウェアを扱う際には、その対応に抜け漏れがないように考える必要があります。
例えば、基本的な考え方としては以下のものが挙げられます。
製品の区分 | 対応方法例 | 製品の所在と時間軸 |
新規に製造する製品 | 設計方法・製造工程を変える | 「未来」に製造 |
製造済で自社の在庫 | 倉庫で在庫機の対応をする | 「現在」自社で保有 |
製造済かつ販売済 | 回収 or 顧客の設置先で対応をする | 「過去」販売済 |
上記の表にある通り、自社視点で製品の所在地を見た際に、時間軸として未来・現在・過去の3つに区分されるとわかります。
この考えから着想を得て、筆者は現在、「データ」のあり方を考える際には「未来・現在・過去」を起点として捉えるようにしています。
多くの場合、「データをきれいに保つ」ことを想像すると、「名寄せ」「データクレンジング」などが思い浮かぶのではないでしょうか。
これらは「あるべきデータセットにするために、今あるデータを修正する」作業と言えます。一方で、そもそもとして必要なデータセットから逸脱したデータが入力されなければ必要がない作業でもあります。
マーケティングの役割は「売れるため、買ってもらえるための“仕組み”を作ること」とよく言われますが、データ活用においては、このような全体の「仕組み」を考えることが重要です。
そのうえでは「①まずはルールを作る→②ルールを逸脱したデータを入らないようにする→③どうしても逸脱してしまうデータを修正する」との各対応が三位一体となっている必要があります。
次章からそれぞれの要素を解説いたします。
1.仕様・ルール作り
マーケティング活動で、まず「どんなデータが重要になるのか」の定義化が重要です。
具体的には、「リードプロファイリング」に代表されるデータを定義することになります。その考え方については、BtoBマーケティングでデータ活用の起点となる「リードプロファイリング」の基本情報の記事で紹介していますので、あわせてご参照ください。
当該記事では、定義化のポイントとして、営業・マーケティング間で必要な情報の共通認識を持ち、それをデータセットレベルに落としていくことが重要であると述べました。そのうえでデータの「持ち方」も定義していきます。
定義した持ち方どおりにデータを取得するために着目するべきは、データの流入ポイントであり、それにあたって最初にデータベースへの流入パターンをすべて洗い出しておかなければなりません。
特に、システム間でデータ連携をしている場合は、ひとつのツールだけでなく「システム全体」の視点から考える必要があります。具体例としては、以下の通りです。
- 顧客が会員登録をするようなポータルサイトを保有してMAと連携する。
- MAではマーケティング担当者によるリストアップロード、顧客によるフォーム入力が発生する。
- SFAとMAは連動しており、MAで取得したデータがSFAに流れる。また、営業担当者が入力したデータがMAに流入する。
- SFAが他のシステムと連動しており取引先の情報等がデータ連携する。
これらを見てわかる通り、ワークフローとシステムは連動するため、その相関図と、どんな種類のデータが、どんなデータの型で流れているかを把握する必要があります。
加えて重要なのが、たいていの場合、システムごとで担当部門が異なるケースも多いため、たとえば「なぜそのデータが必要か」などの背景情報も把握しておかなければならないという点です。
以上を踏まえて、各データの流入ポイントと、そこに含まれるデータを把握しつつ、全体を踏まえたうえで必要なデータについて定義します。
さらには、データを定義するだけではなく、定義通りにデータが格納されるようなルール作りも求められます。
たとえば、リストアップロードのフォーマットを整えるなどのテンプレート化や、「誰が」「何を」「どのように」入力するかを定めたマニュアル作成といった運用ルールの策定です。
2.データガバナンス
ルールを決めた後に考えるべきことは「ルールに沿ったデータクレンジング」ではなく、「将来にわたってルールに沿って入力し“続ける”ためのガバナンス」を整えることです。
システム連携を考えると、データに触れる関係者の数は肥大化していきます。それに加え、顧客がフォームを経由して直接データベースに値を入れる可能性も考慮したうえでの仕組みを整える必要があります。
社内の人間であっても、意図せず誤入力するケースも踏まえると、マニュアルを作ることと、マニュアルの裏にある思想やそのルール理解して実践することには大きな隔たりがあると言えます。
そのうえで理想の姿であり続けるためには、ガバナンスを徹底しなければならないのです。
ガバナンスを考える枠組みは「ハード」「ソフト」に分けられます。
ハードのアプローチでは、そもそもとして入力規制をする、入力可能な人を制限するなど、「システムレベルで誤入力をできない状態にする」ことが必要です。
たとえば、顧客が入力するWebフォーム、営業担当者が入力するSFAなどの入力項目をドロップダウンにしたり、必要なデータが含まれていない場合は必須化をしたりするなどして「物理的にできない状況をつくる」ことが挙げられます。
人間が介在する以上、「ミスは発生するもの」として、システムレベルで制御するのが望ましいといえます。
一方で、突き詰めて対応すればするほど、過剰な設定(オーバーアーキテクト)になってしまいます。その結果として、対応の工数や費用が大きく膨らんでしまったり、そもそもとしてシステム仕様として対応できなかったりする場合もあるでしょう。その際は「運用で回避」することも必要になり、これが「ソフト」での対応となります。
まずはハードで対応できないか検討したうえで、バランスを見て運用で対応する。この流れが重要であり、最初から運用に任せる性善説は通用しない前提で考えるべきです。
さらに、システム設計・設定そのもののガバナンスも重要となります。たとえば、近年では多くのソフトでSaaS製品が使われていますが、これらは多くの設定変更が簡単に行えてしまうという特徴があります。
そのため、「データを入れるフィールドを追加する」などの設定変更が、あらゆるユーザーで乱立して行われてしまうケースをプロジェクトを通じて何度も見てきました。
その際には「やりたいこと」「やりたい背景」から逆算して、本当に設定変更すべきかを検討しつつ、一般ユーザーにはデータの根幹になる設定はそもそもとして「触らせない」仕組みをつくことも必要です。
3.データクレンジング
「ルール決め」「将来のデータ流入」が完了してはじめて、データクレンジングの検討段階となります。
データクレンジングで一番に気を付けるべき点は、トリガーとなるものが、新しいルールが施行する前後のタイミングになるので、「新しいルールに即していない、かつクレンジングも対応していない」空白の期間にあたる対象データをなくすことです。
そこまでのルール決めがされていれば、そのルールに沿って機械的に対応するだけですので、多くの場合では一括で処理したり、アウトソーシングしたりしているケースもしばしば見られます。
加えて、クレンジングの一環として、定期的に外部からデータを購入して充足率を向上させるといった取り組みも、データ活用をするうえでは重要です。
データの正確性の罠
ここまでで、データドリブンを支えるために必要な考え方を解説しました。データガバナンスにおいては、しっかりとルール化し、それを「過去のデータ」「これから取得するデータ」に適応し続けることがポイントと言えます。
一方で、「そもそもとしてどこまでデータの正確性を担保するのか」という問題についても考える必要があります。
「1%から80%の精度に作り上げるのと、80%のものを100%の精度にするには同じくらい工数がかかる」との言説がありますが、これはデータにおいても同様だと言えます。
加えて、データ活用にかかる業務について、「必要だから行われている」のではなく「慣習として行っている」ケースも往々にして存在します。
データ活用を開始した当時には必要性があって行われていた業務であったとしても、時間が経てば不要になることもあります。そもそも、データとして持っていても、最終的に何にも活用されていなかったり、分析されていなかったりするケースもあるのではないでしょうか。
さらに、マネジメント側の問題になりますが、担当側がしっかりと分析して考察を出したとしても、それが意思決定に反映されない場合もあります。
意味もなく惰性で行っている業務を見直したり、減らしたりするなどの抜本的な取り組みを実施しない限り、ツールの導入やマーケティング活動の本格化に伴い業務は肥大していく一方になります。
取り入れるだけでなく、本質的でない業務の「断捨離」も同時に検討することが、日本企業全体で言われている「生産性向上」の課題解決につながると言えるのではないでしょうか。