はじめに
リードスコアリングは、多くのBtoB企業で運用されるようになったMA(マーケティングオートメーション)の主要機能のひとつで、マーケティングだけでなく、インサイドセールス・営業まで含めたキャンペーン全体の効率アップに繋がる強力な武器になるものです。
一方で「リードスコアリングをうまく使えていない」「上手く使えている事例をあまり見ない」との声も多く聞かれます。リードスコアリングに期待値が高い反面、正しく運用するための難易度も高いのが現実です。
本稿では、リードスコアリングを正しく機能させるために必要な部門間連携・データ戦略について解説します。リードスコアリングの基本的な考え方については『リードスコアリングとは何か?基礎知識や方法論を解説』で解説していますので、あわせてご参照ください。
リードスコアリングを機能させるために必要なこと
リードスコアリングを機能させるために着目すべき要素は、大きく3つに分類されます。
1. 部門間の連携がとれているか
リードスコアリングはマーケティング工程全体の効率化を図るものであり、主目的は「フォローアップ対象の優先順位付け」です。フォローをするのはマーケティングの次工程の方々ですので、インサイドセールスや営業と入念にすり合わせておく必要があります。
すり合わせを行うのは「自社 “に” 興味を持っているリード」の条件をどうするかだけでなく、「自社 “が” 興味のあるリード」にあたる企業属性・ターゲット部門・役職などについてです。マーケティング戦略に加えて、営業戦略も踏まえながら検討していく必要があります。ターゲットの考え方については、同ブログ内の『3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計』でも解説しています。
また、営業リソース次第でフォロー可能数も決まってきますので、受注などの最終コンバージョンを起点としてバックキャスティングしながら組み立てることが重要です。例えば必要な売上目標達成のために何をすべきか算出するとしましょう。売上目標金額を平均受注単価で割ることで、受注件数を算出する。その受注件数を達成するためにはn件の商談数が必要で、そのためにはm件のリードが必要。という考え方です。
リードスコアリングでは、「どのような条件で」「誰が」「どのように」フォローするかについて、事前に合意が取れていることが前提となります。
このような前提にはファネル設計ができている必要があります。ファネルの前提となる知識として知っておきたい、シリウスディシジョンズのデマンドウォーターフォールのフレームワークに関しては同ブログ内で前編・後編に分けて紹介しています。
最後に、スコアリングを設定する際の条件づけを変更するだけで、スコアごとのリードの分布が大きく変わることには注意が必要です。閾値やスコアの持たせ方を変えるだけで「フォロー対象とみなされる」リード数が倍になることも珍しくありません。
いきなり本格展開をするのではなく、それらの数字を見ながら各部門とチューニングしてから運用開始することが重要です。各MAツールにおいても、PoC部門を選定して実施後に、本格展開することを推奨しています。
2. 十分な数のリードを保有しているか
スコアリングが必要になるタイミングは、インサイドセールスや営業がフォローできないほどリードが存在する場合です。そもそも少数しかリードがいない状況ではつける “優先順位” がなくなってしまいます。
「十分な数のリード」に関して絶対値はなく、営業のヘッドカウント・受注目標・商談に必要な工数など、複数の要因を加味しながら検討する必要があります。例えば、営業で案件が少なく、リソースに余裕があるのならば、多少見込みが低いリードでもフォローをした方が全体最適になる場合もあるでしょう。
そもそものリード数が足らないのであれば、キャンペーンカレンダーやMAの活用方法の見直しを行い、リードを継続して生み出せる仕組み(施策・システム)を作ることもマーケティングの重要な責務です。
MAを活用した仕組みづくりに関しては、こちらのホワイトペーパーにまとめていますのでご参照ください。
3. 「スコアリング可能なデータ」が存在するか
『BtoBマーケティングで膨大なデータを有効活用するポイントとは? 』でも記載している通り、スコアリングの設定上、一番重要になるのは「データ」です。
例えば、自社が製造業でオラクル(Oracle)社のエロクア( Eloqua)のマニュアルに倣って、下図の通りリードスコアリングを行ったところ、プロファイル・エンゲージメントともに最高評価であるA1に当たるある顧客が、開発の部長だったとします。
この際、あくまでMAはデータベースになりますので、その情報がきちんとデータとして格納されている必要があり、以下のようなデータセットでなければなりません。
しかし、もしこの方の名刺に 「ハードウェア設計室 / 室長」と記載されていた場合、そのままの値がデータとして格納されていると、データが一致していない状態になります。
そうなれば、実際にはAにあたるプロファイルのリードでも、データベース上は判断がつかないため、スコアリング上では“D”とみなされてしまう可能性があります。
さらに、エンゲージメント評価の際には「X製品に関連するサイトに訪れたら高い評価を入れたい」などのシナリオが考えられる場合も多いでしょう。
しかし、サイトのURLは「wwwから始まるただの文字列」と言えますので、X製品に関わる自社URL群すべてを指定し、「これらのURL群はX製品に関わるものである」という意味付けをしないといけません。サイト構造上、関連サイトがバラバラに設置されていたり、ドメインをまたいでいたりすると、とりまとめるだけでも一苦労です。
加えて、上記の例は「X製品」などの戦略上の意図がありますが、「製品ごとにするのか」「ニーズごとにするのか」「サイトの重みづけ(価格比較・詳細仕様・問い合わせ等)ごとにするのか」など、スコアリングの”切り口”を関係者で議論をした上で共通化しなければなりません。
リードスコアリングを機能させるために必要なデータ戦略
別の角度からリードスコアリングを機能させるために必要な要素について述べると、自社の戦略やイニシアチブを紐解いて、データレベルまでに落とし込む必要があると言えるでしょう。以下より、必要なステップについて解説します。
1. 必要なデータとデータの持ち方を定義する
必要なデータに対して「①どのようなフィールドを持てば良いか?→ ②そのフィールドではどんな値を持つべきか?」 を定義していきます。特に②に関しては、プルダウンリストのように体系化しなければなりません。
例えば、商談サイクルが短い商材の場合、BANTフレームワークにおけるT(タイムライン)が重要になります。一方で、組み込みパーツに使われる製造業の商材ですと、商談サイクルが長いためTはあまり問題にならず、むしろどんなアプリケーションや用途に使われるかというBANTのN(ニーズ)が重要視されます。
スコアリングの際には、このように項目分けをしてデータを体系化していくのですが、これまでシーズベースでマーケティングを行っていた場合、それらを顧客視点のニーズにまとめ直すだけでも一苦労です。
マーケティングの意図だけではなく、営業部門や(製造業の場合)必要に応じて開発部門の意思なども汲み取りつつ、最終的にデータセットレベルまで落とし込む必要があります
2. 定義にそったデータベース設定とデータ流入ポイントの整備をする
体系化したデータに関しては、営業と共有するため、MAと連携するCRMシステムに実装し、シームレスにデータ連携ができるようにしなければなりません。
その際、事前にデータ定義をしていたとしても、定義に沿わないデータが流入すると機能しなくなってしまいます。筆者は、せっかく定義していたにもかかわらず、「エンジニア」「engineer」「enginer(タイプミス)」と、エンジニアという単語だけでも数十通りのパターンがあるため、スコアリングが全く機能していない例を過去に見ています。
そのような事態を避けるためには、 データの流入ポイントを洗い出した上で、データが一貫性を持つように、WEBサイトやランディングページ、インポートフォーマットなどで入力規制を施すことです。
3. データを充足する
スコアリングでは、最終的に定義したデータの獲得が求められます。せっかくデータを定義しても、中身が空ではすべてが”D4”になってしまうためです。
特に、BANTにあたる情報は、実際に顧客に確認しないとわからないことがほとんどであるため、マーケティングキャンペーンや営業活動などの顧客接点を強化してデータを集める必要があります。
エンゲージメントにおける、オンラインの行動動態に関しては、リードの個人情報とその方のcookieがMA上で紐づいていないと特定できません。あまり紐づいていないのであれば、これらを紐づけるための施策も必要です。
4. データガバナンスとメンテナンス
リードスコアリングはローンチして終了するものではなく、その後に渡って活用し続けていくものです。そのため、設定時に一時的にデータを使える状態にするのではなく、常に活用可能なデータにし続ける仕組みづくりが重要となります。
「インポートフォーマットをテンプレート化して指定の値以外入力できないようにする」「営業が記載するCRMの入力規定をする」「使用するフォームの項目を統一する」等があげられます。
MAを活用する上では同様の取り組みが必要
以上を踏まえた上で、「リードスコアリングの設定はハードルが高い」と感じられる方もいらっしゃるでしょう。しかし、リードスコアリングの仕様有無に関わらず、MAを運用する上では本稿で述べた考え方をしていかなければ、MAの武器となるデータ分析やセグメンテーションはできません。
そのような状況が続くとMAを導入したのに、ただメールを配信しているだけで成果が出ない状況になってしまいます。
MAの“自動化”部分に取り組む上で、「プロセスの自動化」は重要な要素で、その中でもリードスコアリングは主要機能のひとつです。しかし、「あるべきデータの持ち方」が何も定義・整備されていなければ、データベース設定をする難易度は大幅に上昇するでしょう。
成果を出すために必要な仕組みづくりをするためには、MA活用のロードマップを作成し、関連部門交えた議論を進めていくことが重要です。