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マーケティングオートメーション導入の拡大
マーケティング・オートメーション(MA)を導入する企業が増え続けており、矢野経済研究所の2020年の調査によるとMAの市場規模として2020年度で447億の規模に成長し、今後5年の見込みも年率平均15%程度の拡大傾向が続くと見られています。
MAの主要機能の一つとしてあげられるのがメール配信の機能です。顧客データベースとして保有したコンタクトに対して、デザインメール(HTML)の作成、シナリオに沿った配信機能を各社ベンダーともに備えております。
これまでは外資系企業の導入が先行しておりましたが、日系メーカーでも近年導入が進んでいます。我々のクライアントのマーケティング部門からも「MAを導入して思ってもみなかったところから問い合わせが来た」というコメントをいただいており、効果を実感されていることがうかがえます。 最近では、MAベンダー各社から様々なテレビCMやタクシーデジタルサイネージ広告などでも流れ、10年前にはMAという言葉すら定着していなかったことを考えると隔世の感があります。
マーケットワン・ジャパンではMAの領域に関し、外資系MAベンダーが日本に上陸した当初から、川上から川下までの領域でクライアントの伴走支援をしてきました。
- マーケティング戦略作成と戦略におけるMAの位置づけの定義
- 導入稟議・ツール選定・インプリの支援
- システム連携などのシステムのコンサルティング
- キャンペーンシナリオ策定から実行までの運用支援
- リードのフォロー体制などの仕組みの構築
今回、「データベースとしてのシステム」や「マーケティングのキャンペーン」のように複数の要素がからむMAにおいて、両方の側面から見るメールマーケティングの指標というテーマで、2回にわたって解説していきます。
メールマーケティング指標の全体像
メールマーケティングでは反応が定量的に取得できるため、現状の分析と次の適切なアクションをする際に大きな効果を発揮します。経営コンサルタントである後正武氏はその著『意思決定のための「分析の技術」』に、「分析」とはなにかについて以下のように述べています。
“分析の「分」の字は、八(左右にわけるしるし)と刀とを組み合わせたもので、一つのものを二つ以上のものに分け離し、別々にすることを表し、「析」の字は、斤(おの)と木の組み合わせで、木を斤で細かく切り話すことを表すそうである。
<中略>「分析」という用語を使うのは、世の事象は諸要素が融合して漠然一体となっており、これを正しく理解するためには総体としてとらえるだけでは不十分で、「分けて、個々の要素を吟味することによって、はじめて本質を正しくとらえることができる」”
つまり、全体をドンブリで考えずに、きちんと因数分解をして要因を細分化することが重要です。施策をする際は、社内目線と顧客目線の両軸で語る必要がある、と以前のブログで記載しましたが、今回はシンプルにするためにメール配信する側の目線から、各指標を紐解いてみました。
セグメント分け等をするともう少し細かくなるのですが、今回は話をシンプルにするためにデータベース全数(保有する全コンタクト)に対してメールを配信する場合とみてください。
メールマーケティングを紐解くと、大きく以下の二つにフェーズ分けすることができます。
(1)メールが顧客に到達すること (2)到達したメールに顧客がアクションすること
前者に関してはシステムの側面が強く、ITとも連携しながら進めるデータベース戦略ということができます。後者に関してはいかに惹きつけるコンテンツを提供するか、というマーケティングのキャンペーン戦略の領域ということができます。
次の章より各指標に対しての解説を加えていきます。
メールマーケティング指標:コンタクト総数
文字通りMAに入っているコンタクトの総数です。
SFA/CRMシステムを使用していると、どちらのデータベースにコンタクトを蓄積するか、という議論になります。結論でいうと、MAファーストでデータを蓄積していくことをマーケットワン・ジャパンでは推奨しています。理由としてはファネルを考えた場合に、リードを絞り込んでいくことになるため、システム上もそれに適した形にしていくべき、という思想です。
ファネルに関してはこちらの記事で解説しています。
さて、メールマーケティングの特徴は、1通送るのと1万通送るのでコストがかわらないので、まずはコンタクト数を集めることが重要になります。日本ではオプトインが取得できていないと配信ができないため、必然的に自社の保有コンタクトが配信の総数となります。特に、日本の商習慣では名刺文化が根強いので、営業と協力しながら机の中に眠っている名刺をどのように電子化していくかを検討することが初期段階では重要になります。
また電子化してMAにインポートする際には、特定電子メール法に沿った内容であるか、企業のプライバシーポリシーに沿っているか、十分に検討する必要があります。加えてグローバルマーケティング推進を目指す企業では、GDPR対応がキーワードになります。例えば欧州の中でも個人情報の取り扱いに厳しいドイツでは、ダブルオプトイン(登録確認メールのURLを送るなどで2段階の登録確認をすること)が必須であったりと、国によって取り扱いが異なるので注意が必要です。
上記の背景から、マーケットワンではMAに登録するすべてのコンタクトに対して国名情報の付与を推奨しています。国内だけを配信の対象としていても、欧州在住のコンタクトが紛れ込んでいるとGDPRの対象とされてしまうため、「日本である」ということをデータベースの中で明示することが重要です。
インポート以外にも、問い合わせフォーム・ランディングページ・SFAと連携している場合にはSFAで作成された営業データと、MAにデータが入るタッチポイントは多岐に渡ります。これらのデータ取得のポイントとなるリードソースの可視化は重要なデータとなるので、個人情報取り込み時に合わせてデータベースに情報付与しておくことを推奨しております。
メールマーケティング指標:配信数
コンタクト総数から、配信する上で除外するコンタクトを抜いたものが配信数です。
除外をするケースは、配信停止や過去ハードバウンスバックが記録されたコンタクト、また送り手の視点で競合などメールを送りたくないコンタクトがあげられます。(上記の通りセグメント設定で、特定のコンタクト属性で除外するパターンは今回考慮しません)
配信数を増やす上で、まずはキャンペーン戦略とも連動しながら、配信停止の数を増やさないことが重要です。配信停止数をモニターしていきながら、配信頻度やコンテンツを調整します。ハードバウンスバックが起こると以後配信対象から除外されてしまいますが、こちらに関しては後述します。
競合等の判別は会社名でソートすると、社名に含まれる「株式会社」の有無などで揺れが出てしまうため、Emailドメインで規定するのが一般的です。その際は競合の洗い出しと、自社データベース中から紐づくドメインの入手が必要になります。
BtoBビジネス独自の事情としては営業が関わることが多いので、営業から「このコンタクトには送りたくないので除外して欲しい」という依頼がくることがあります。会社的に取り組みが認知されていないと、営業からコンタクトの大半が除外されてしまい、ほとんどがメールマーケティングの対象外となってしまったという悩みもよく聞きます。以前、DX=IT化だけでは終わらない!(2) – ぶつかりやすい壁とその打開策 –という記事に記載しましたが、関連メンバーにMAの意義を理解してもらう、草の根活動も重要となるのです。
BtoBでは個人を対象としないため、企業アドレス以外のフリーアドレスには送らないケースも多く見られますが、その場合も競合と同様にドメインでフィルタリングをかけることで除外が可能です。
メールマーケティング指標:到達数
メール配信したものがすべて届くわけではなく、到達しなかったエラーをバウンスバックと呼びます。
バウンスバックにはハードバウンスとソフトバウンスバックに分けられます。ハードバウンスバックは、今後永続的に配信ができないものを指し、ソフトバウンスバックは一時的に送られないものを意味します。
MA側でどのようにこれらを判断しているかというと、メール配信の差異にはSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)と呼ばれる通信プロトコルが用いられています。メールを配信した際に、バウンスバックが発生するとプロトコルにおけるエラーコードが検出されるため、MA側でこのエラーコードを見て判別しています。各社ベンダーで基準が異なるケースが多いのですが、一般的には、恒常的なハードバウンスバックでは500番台のエラーコードが返ってきた際に判定されます。
ハードバウンスバックのエラーの例は、
- Eメールアドレス・ドメイン名自体が存在しない(誤っている)
- スパムメールと認定されてしまった
- DMARC、DKIM、SPFなどのセキュリティポリシーに適合せず、受信者側のサーバーで拒否されてしまった
転職でメールアドレスが変わっていたり、入力時にミスがあったりなどで無効なアドレスがデータベースに存在する場合が主要因になります。
他方、一時的なソフトバウンスバックは400番台が返されたときとなり、エラーの例は、
- 受信者のメールボックスが容量オーバーである
- メッセージ・コンテンツサイズが大きすぎる
- 受信者側のサーバーがダウンしている
特に企業ではメールの容量の上限が各社ごとに厳しく設定されていることが多く、ユーザーで受信メールのアーカイブや削除をしないといけないというケースもあり、メールボックスの容量が上限にある状態でメルマガを送られてくる場合などに一時的なエラーとして記録されます。
ハードバウンスバックが検出されると、今後二度とメールが送られなくなってしまうことから、「ハードバウンスバックといいきれない」ものがソフトバウンスバックと判定される場合もあります(MAツールの仕様で異なります)。その場合、ソフトバウンスバックの中にもハードバウンスバックとほぼ同様のエラーが紛れていることがあるため注意が必要です。
これらの対応のためにソフトバウンスバック専用のモニタリングプログラムを組んでいらっしゃるクライアントもいらっしゃいます。
なお、マーケットワン・ジャパンも自社でメール配信をすることがありますが、ハードバウンスバックやソフトバウンスバックの件数が比較的多く検出されます。その背景としては、外資系マーケティング職のお客様がコンタクトに多く、人材の流動性が高いので、転職・退職する方が多い傾向にあります。その場合、メールアドレスが無効になるためハードバウンスバックが検知されます。
こういったことはビジネスモデルや顧客特性によって左右される面があるので、各社ごとで特徴が出ます。
配信到達率改善のために
配信到達率改善に向けては、メールアドレスが無効だったり、受信フォルダに上限があったりなど、どうしても送り手側でコントロールができないものがあります。
一方で、コントロールしていかないといけない重要なことは、スパムへの対応です。メール配信において、配信用にMAに登録するIPアドレスごとでレピュテーション(信頼性)が定量評価されています。信頼性が下がると受信側であるISPからスパムと判断され、迷惑メールの扱いをうけてしまうことがあります。
「あるメルマガに登録したものの、興味がなくメールをずっと開いていなかったところ、目にしなくなった。ある時迷惑メールフォルダをみたら、その企業のメールが迷惑メールに入っていた」という経験が皆さんもあるのではないでしょうか。反応がないノンアクティブのユーザーに送り続けると、知らず知らずのうちに信頼性が毀損してしまいます。
配信頻度や、そもそもメールに全く反応しない人は除外するなどの対応が必要になります。我々のクライアントには休眠ユーザー向けに特化した「リエンゲージメントプログラム」を構築して対応することを推奨しています。
なお、グローバルマーケティングを推進する場合、中国では配信到達率で苦労するお客様も多いようです。中国ではBtoBでもメルマガ登録にフリーアドレスを使う人が多い傾向があり、フリーアドレスの提供社(ISP)も一部の数社に限られます。それらの企業は中国国外にサーバーを置く事業者からのメール配信を厳しく規制する例が見られ、上であげているようなDMARC、DKIM、SPF等のセキュリティ設定が正しくされていないとスパム認定されてしまいます。また各ISPに対するホワイトリスティングが必要な場合もあり、中国独自の対応が求められるケースがあります。
これらを考えたときにシステムの観点で一番重要なのはインプリの最初の配信です。IPアドレスの信頼性は最初から高いわけではなく、配信到達率があがることに少しずつ改善されていくものです。そのため、インプリ後、最初の配信では「IPウォーミング」と呼ばれるプログラムが組まれます。これはデータベース側に登録されているコンタクトに最初にいきなり全配信すると、受け手のISP側が特定のIPアドレスの急な配信に警戒してスパムと判別したり、最悪のケースではブラックリストに登録をされたりします。
IPウォーミングでは、初日は全コンタクトのうち1%に送り、そこから二週間かけて全コンタクトに配信するというような「徐々に地ならししながら配信をする」プログラムを組みます。
一度信頼度が下がると、上げるのは難しく、その間はスパムでエラーが返ってきてしまい、思うようなマーケティングができなくなります。メールマーケティングでも「一度失った信頼を取り戻すのは難しい」という、ビジネスの原則どおりのことが言えます。
なお、これらのIPアドレスは企業専用のIPを使う場合と、MAベンダーで共有のIPを使う場合があります。これらの設定を確認した上で適切な対応が必要になります。一般的には、共有のIPでは実績があるため最初の段階の信頼度は高い一方で、他のユーザー企業の使い方次第では到達率対策が上手くいかない場合もあります。一方、企業専用IPは、最初は特に慎重に対応する必要があるが、信頼度の対策を打てば対処がしやすい傾向があります。
最後に
MAをデータベースとキャンペーンという側面に分けて、今回はデータベースの側面で述べました。
二つの側面があるものの、ここまで記載の通り、両側面を合わせて戦略立てをしていかないと成果は出ません。多くの企業では、システムの観点はIT部門、キャンペーンの観点はマーケ部門とオーナーが分かれますが、協力して改善していくことが重要になります。
後編となる次回は、キャンペーンの側面にスポットライトを当てて指標の解説をしていきます。