「どこから手をつければ良いのかが分からない」
これは事業の海外市場への浸透を目指すクライアント企業からよくいただくご相談のひとつですが、海外市場攻略の難しさをよく物語る一言だと言えるでしょう。
グローバル戦略では「Think global act local (地球規模で考え、足元から行動せよ)」と言われるケースもありますが、実際は国や市場ごとで特徴が異なるため、各国ごとで市況を把握した上で取り組まないとうまくいかないのが実情です。
マーケットワンではグローバルでサービスを展開しており、日本オフィスは韓国や中国、台湾のサービスオファリングの機能も有しています。
その中で筆者は、デマンドセンターグローバル部門にてクライアント企業の韓国市場進出のサポートを担当しており、主に韓国市場での新規開拓、BtoB向けテレマーケティングの運用・実行を担っています。
韓国市場を攻略する際も同様に、韓国企業の特定グループ社や財閥グループ社に絞ってアプローチした方が、より時間やコストを削減できるでしょう。
本稿では、韓国市場へのアプローチを検討されている企業さま向けに「BtoB領域における韓国市場参入のあり方」について解説します。
韓国市場は日本とは大きく異なる
韓国市場の攻略を検討した際に、日本と全く異なる市況であることがネックとなり、初期段階でつまずいてしまう企業は多い印象です。
筆者自身、実際に日系のクライアント企業から「どこから手をつければ良いのかが分からない」「韓国市場に精通している人材がいない」「まずは片っ端から電話でアポをとっている」といった内容の相談をたびたび受けています。
こういった相談を受けた際に、課題の原因として多いと感じられるのが、ほとんどの事業担当の方々が韓国市場・企業に対する理解が浅いまま事業の展開、もしくは市場開拓に転じてしまっていることです。
日本にとって韓国は“近くても遠い国”と言われるように、韓国市場は人口や人々の意識が日本とは異なるため、必然的にそこから生まれる商習慣やビジネスの方法、経済の構造も日本の常識とは大きな隔たりがあります。
特に、韓国市場の特徴的な部分として、韓国経済は財閥系の企業に支配されているケースが多いということが挙げられます。
これを踏まえると、製品やサービスの良し悪しだけでは測れない要素が多岐にわたるため、事前のリサーチを通じて、実際の成功の可能性を分析することが必要です。
一部の産業材などの製品群によっては、代理店を見つけるだけでは市場浸透すらままならなかったり、ローカルの営業による技術的なサポートが必須であったりするなど、実情にあった展開戦略の立案が求められるケースが多々あります。
韓国における独特の経済や支配構造を踏まえず、日本市場におけるアプローチ方法をそのまま実行してしまうと、当初目標としていた韓国市場への展開が失敗に終わるリスクが高まるでしょう。
そのため、韓国市場を攻略する際には、より現地に精通し、韓国企業群の構造を分析した上で自社のビジネスの実情にあった戦略を立案しなければなりません。
財閥系企業による支配構造
韓国市場を攻略する際には、韓国財閥系企業の支配構造について把握することが求められます。その理由としては、韓国での事業展開をねらう日系企業からすれば、買い手の大手となる韓国財閥系グループ社が将来ターゲットアカウントとなる可能性が高いからです。
韓国貿易協会の発表しているデータによると、韓国国内71社の企業集団(グループ社)の2020年における売上高は、韓国国内総生産(GDP)の84%を占めると判明しています((KITA.NET「71대그룹 작년 매출, GDP의 84%…10대그룹 고용은 ‘감소’」))。
この71社のなかには、日本でも馴染みのある製造業を中心としたサムスングループやLGグループ、ヒュンダイ自動車なども含まれます。
このような支配構造は、1960年代から1980年代にかけての韓国高度成長期において経済発展に大きく貢献してきたという背景があり、今や経済のみならず政治的にも大きな影響力を持つに至りました。
いまや財閥式構造が韓国企業の根幹となっているため、日本のみならず、新たに韓国市場に参入する外国企業は、上記の韓国財閥系グループ社へ戦略的にアプローチを行うのが通例となっています。
韓国市場は、同ブログ内のABM(Account Based Marketing)関連記事でも述べたABMが適している市場特性を兼ね備えています。財閥のようなターゲット企業群を特定でき、売り上げの偏在性が大きく、製造業が全体の4割と高い推移を占める韓国市場は、ABMと親和性が高いと言えるでしょう。
さらに、韓国財閥系企業の特徴として挙げられるのが、各グループ社の役割です。例えば韓国GDPを索引するSグループ社でいえば、韓国国内だけでも59社があり、製造から非製造、金融、サービス、そして近年ではプラットフォームソリューション事業など業態を絞らず様々な形で事業を拡大させています。
韓国財閥系企業の特徴的な点として挙げられるのが、数多いグループ社の中で、買い付けを専門とする、もしくはそういった性格を持つグループ社が別に存在するということです。これらは、いわゆるグループ全社の“お財布の役割”を担っている企業となります。
これを韓国国内では「SI (system integrators)業者」と呼び、S社においては、SグループのSI 事業会社がこれに当たります。
SグループのSI 事業会社は、通常であれば自社でグループ社向けに製品やソリューションの開発、調達、供給を担当するところを、事業内容によっては他社および外部専門家へのアウトソーシング、あるいは協業を積極的に取り入れています。
このように事業を展開しているため、Sグループ全社の購買窓口としての機能も兼ね備えているのです。
韓国市場におけるSI業者は、Sグループ社に限る話ではなく、韓国財閥系企業全体でみられる特徴となります。財閥各社でそれぞれ特徴も異なるため、会社ごとに戦略を立てた上でアプローチを行います。
前述の通り、日系企業では韓国大手企業に対し「まずは片っ端から電話やメールでアポをとっている」という間違ったアプローチが頻繁に行われます。例えば、ある韓国大手グループ社の企業A社へアプローチすべく、そのままA社へ直接架電を行うといったパターンです。
残念ながら、こういった手法ではターゲットのコンタクトを取得できる可能性は低いでしょう。
そのため、ターゲットアカウントごとに適切なペルソナ設定を行い、それを踏まえた個別の戦略を定義しなければなりません。
韓国市場における新規アカウント開拓の事例
ここで、過去にマーケットワンのデマンドセンターグローバル部門にて、テレマーケティングを活用して韓国市場を攻略したA社の事例を紹介します。
この事例におけるA社の依頼は、韓国市場における新規アカウント開拓およびアカウントに付随するキーパーソンのコンタクト発掘に加え、発掘したコンタクトとF2F面談による営業機会の創出でした。
A社は有形・無形のいずれもソリューションとして世界的に事業を展開する多国籍企業ですが、韓国市場におけるポジショニングは競合よりも遥かに遅れている後発走者の状況です。
韓国市場攻略に関してはこれからという状況で、韓国市場に関する詳しいリソースや予算には限りがあったため、マーケットワンでは以下のキータスクを設定しました。
- ターゲットアカウントの選定…韓国大手財閥系企業を中心に各グループ社でのA社ソリューションの使用状況や導入可能性についてリサーチし、仮設立案したうえで共有する。
- トレンドリサーチ…ターゲットとなるキーグループ社の部署・役職・現在行っている事業のトレンドをリサーチした上で、よりコンタクトや行っている事業について情報を探る。
- テレマーケティング開始…ターゲットアカウントを起点にして、架電を通じて競合ソリューションの使用状況や契約内容、導入可能性についてヒアリングし、可視化する。
- 外部からの技術的サポートの有無確認…ターゲットコンタクトに対し、A社の強みであるローカルのパートナー社によるサポート必要性の有無と状況のヒアリング。
A社の場合も、韓国市場に対する情報や知識が全くと言っていいほどない状況で、一から準備を行う必要がありました。
さらに、当初の課題として「韓国の大手企業へターゲティングしたいけれども、どこからノックすればよいのかが分からない」「当社の強みであるパートナー社による技術的なサポートを売りにしてアプローチしたい」などの相談を受けています。
冒頭でもお伝えしましたが、架電を通じてソリューションを市場に売り込むだけでは、市場浸透がとても難しいため、自社商材にあった戦略を先に立案して、実行に移す必要があります。
A社とのプロジェクトでは、初期段階から細かくフォローに入り、「企業リサーチの結果報告」「商材・サービスのトレーニング」「コールスクリプト作成&共有」「テレマーケティング進捗状況のウイークリーレポート」などによるサポートを行いました。
最終的には、こうしたターゲットの特色を踏まえた戦略に基づくアプローチが功を奏し、当初目標としていたターゲットアカウントのコンタクト開発及びF2F商談成立、一定予算のPipelineまで構築できました。
さいごに
以上の通り、韓国市場の攻略を成功させるためには、韓国市場・財閥系企業の支配構造について理解し、仮設立案の上で戦略的にアプローチすることが重要です。それにより、韓国市場へのスムーズな浸透を達成できます。
マーケットワンのグローバルデマンドセンター(中国・台湾・韓国)では、お客様企業の「韓国を含むアジア地域の事業展開」「海外向けBtoBテレマーケティングの運用」などのサービスも提供しています。
自社の海外進出に関して課題を抱えていらっしゃる方は、いつでも気軽にご相談ください。
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