BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ - 顧客視点 vs 自社視点 - | MarketOne

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BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ - 顧客視点 vs 自社視点 -

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「顧客中心主義」を実現するための理想と現実 

「顧客中心主義」「カスタマーセントリック」という言葉が、各社の中期経営計画などで広く見受けます顧客価値を最大化するための企業側の手段として、マーケティングの文脈では顧客の関係性強化としてCRM (Customer Relationship Management)という言葉が使われています。 

Kotler / Keller  Marketing Managementによると以下のように定義されています。 

CRM is the process of carefully managing detailed information about individual customers and all customer “touch points” to maximize loyalty 
CRMは顧客ロイヤリティを最大化するために、各顧客に関する情報や、それら顧客と自社とのすべての「タッチポイント」に関する情報を管理するプロセスである 

CRMを実現するためのデジタルプラットフォームは、国内外から多数リリースされています。その中で、CRMは顧客の情報を「管理する」という意味では自社都合であるので自社視点です。そこで顧客をきちんと理解するベストエフォートとして登場するのが「カスタマージャーニー」「カスタマーエクスペリエンス」などの単語です。 

顧客の状況と、それに対応するための社内の体制というのは1対1で対応すべきとも言えるでしょう。一方で、「自分たちが実施したい施策や自社事情を考えすぎて、顧客視点が抜け落ちている」「顧客にとってあるべきものを追求するものの、自社での実現可能性がない」という、理想と現実のミスマッチをよく見ます。 

ある意味では「顧客視点:理想 vs 自社事情:現実」 の折り合いをどうつけるかというバランスの問題ともいえるかもしれません。すぐに解がでるような題材ではありませんが、今回はこれらに関して論考してみます。 

複雑化する顧客の購買プロセス 

ガートナー社によるNew B2B Buying Journey & its Implication for Salesというレポートを読むと77%のバイヤーが自社の購買プロセスが複雑であると認めています。また、購入までのプロセスは直線的でなく、多くのステークホルダーの意思が入っていることが読み取れます。 

加えてコロナ禍で新しい働き方が進む中で、情報の提供手段も多様化しています。マッキンゼーのレポートでは、顧客購買担当者の視点から、購買ステージごとでよりオンラインを活用した情報収集がしたいということが述べられています。 

購買ステージごとによる営業との好ましい取引手段

McKinsey & CompanySurvey: Japanese B2B decision maker response to COVID-19 crisis | September 2020 をベースにマーケットワンで作成
https://www.slideshare.net/McK_CMSOForum/mckinsey-survey-japanese-b2b-decision-maker-response-to-covid19-crisis-238385203 

 

営業の分業体制へのシフト 

先の章ではバイヤー側の状況を述べましたが、次はサプライヤー側の視点を見ていきましょう。

アダム・スミスは「国富論」の中で生産性を高める手段として「分業」というキーワードを上げました。 BtoBマーケティングにおいても、2019年に福田康隆氏著の「ザ・モデル」で営業領域の分業体制について述べられ、瞬く間に営業活動・プロセスの分業化というキーワードが広まっていきました。 

期を同じくして、日系企業でも営業プロセス機能の分業化の傾向がみられはじめました。MA(マーケティングオートメーション)の導入決定・インプリ・運用からインサイドセールス機能の設計・実行支援を行う弊社も多くの問い合わせをいただいております。また先に述べた新しい働き方の影響で営業プロセスにおいて対面営業のみが多くを担う状態からのシフトが加速度的に高まっています 

なお、海外に関してはSiriusDecisions (現在はForrester社が買収)のデマンドウォーターフォールに代表されるフレームワークがかつてから存在しており、ジョブディスクリプション*に基づく分業体制が一般的な考え方になっています。デマンドウォーターフォールに関してはこちらのリンクにまとめられています。日本語版 英語版 

先に述べた通り、CRM活用の大きなポイントは顧客接点の強化と分業化されたチームにおけるコミュニケーションと情報共有です。新しいコミュニケーションスタイルが広まるなかで、企業側の「顧客との接点の確保を効率よくしたい」という意向から、対面・非対面チャネルを駆使しながら情報提供する仕組みとして注目されているのだと思います。 

職務記述書のこと。職務領域のあいまいさを排除するために、職務の定義・目的・責任等を明記したもの 

CRMの落とし穴 

CRMの議論で出てくるのが、SFA (セールスフォースオートメーション)=営業支援・商談管理ツールです。CRMツールと同様に営業が使うため境界が曖昧になっていますが、BtoBビジネスではタッチポイントの中心が営業であるためSFAが分業体制を支えるシステムの中心にあげられます。 

加えて、営業が対応する前段階の見込み顧客=リードを管理するツールとしてはMA (マーケティングオートメーション)があげられます。日本では、MAツール=メルマガツールとしての認知も強いですが、弊社の海外オフィスで10年以上MAに携わるコンサルトに話を聞くと、「MA = ROMIを最大化するためのリードマネジメントプラットフォーム」という答えが返ってきます。ポイントとしては本質的にはSFAにいくまでの見込み顧客を管理するツールとしての側面が強いということです。 

こうしたシステムが分かれる担当部門/担当者もわかれるという分業制のなかで、それぞれの担当者が扱いやすいようにステージ管理をするのが一般的です。MQLSQLといった単語も社内でよく出てくるのではないでしょうか。

「分業」というだけあって、ある意味ではこれまで一人の営業マンがやっていたプロセスをわけていくことになります。営業マンが自分でやっていた「ドアノックして名刺を渡す→関係構築をする→商談をする→受注する」ことを複数人で実施するために、プロセスを標準化することが必要になるともいえます。その意味合いで考えると、日本の商習慣として営業が、いわゆるマーケティング機能を内包している、と考えられます。 

しかし、上で述べた「購買ステージごとに好まれる情報提供の手段が異なる」ことと、顧客ステージごとに担当部門/担当者を変えることはイコールではありません。顧客はオンライン・オフライン問わず一貫した体験を求めているので、企業側の事情で分業しているだけにすぎないともいえるでしょう。 

カスタマージャーニーエクスペリエンスに代表されるような購買プロセス、MQLに代表される購買ステージもサプライヤー側が勝手に規定しているだけです。バイヤー側の視点では自分に課されたミッション・プロジェクト成功に向けて進み、そのなかで商品やサービスを購入することにすぎないのです。前述のように、営業体制の分業がサプライヤー側で進んでいますが、バイヤー側としてみれば、分業であろうが、専業であろうが自社自身にとって快適な購買体験ができることが重要であるということが置き去りになりがちです。 

社内の施策の話をしているとどうしても、「リード」や「商談」という面でばかり話されてしまい、顧客がどう感じているか、どんなバリュー・ベネフィットがあるかという話がすっぽり抜けてしまうケースも多いのではないでしょうか。 

プロセス標準化の功罪 

こうしたプロセスの拡張性・営業社員の能力開発プランに対して、標準化というものはとても効力があります。一方で、「プロセス標準化」ありきのプロジェクトが多いように見受けられます。

例えば製品やサービスがパッケージになっているものが代表商材であればよいのですが、弊社のような「コンサルティングサービス」等の無形商材であると、厳密な標準化が難しいケースも多いです。また、机上では標準化していても、社員がそれに適応するスキルレベルにあっていないケースもあり、絵に描いた餅になってしまいます。 

弊社もMASFAのシステムインプリを請け負いますが、特にシステム導入をすると、どうしても要件定義の段階でシンプルにしたいという実情があります。システム導入ありきで考え、顧客視点が抜け落ちないようにすることも重要です。 

弊社が過去に配信したABM記事にもあるように、例えば特定の会社に深く入り込むような営業・マーケの連動プロジェクト・開発連動のプロジェクトを実行する際に、顧客ごとで戦略やプロセスのカスタマイズをしていかないといけないケースも出てきます。その際に、「勝ちパターンの共有」はすることはできても標準化に至るまで落とし込むことは難しい場合もありますそれは深く入れば入るほど顧客特性が色濃くなるからです。 

「共有」は発信者ありきでできますが、「標準化」まで持っていくには連動して受信者となるより広い範囲の営業チームができるようにならないといけませんこれら営業活動の標準化と定着化は、セールスイネーブルメントという領域のトピックとなりますので別の機会にお話しできればと思います。 

標準化をどこまで進めるのかはビジネスモデルや市場戦略(Go To Market Strategy)によって大きく変動するため自社にあったスタイル標準化のレベルを見極める必要があります 

プロセス設計は顧客ありきで 

そのなかで、自社起点で考えるべきか顧客起点で考えるべきか、という議論になりますが、顧客起点で考えるべき、が私の主張です。一方で「顧客理解」という言葉が世にあふれるものの、簡単ではありません。それは顧客も自社のプロセスが複雑だと述べていることがわかっているとおり、顧客も自社のことをわかっていないともいえるのではないでしょうか。 

これまで述べている通り、顧客の購買プロセスと社内の営業プロセスは対の関係です。「商談サイクル」という言葉がありますが、顧客起点で考えると「顧客が製品を評価し予算取得し、意思決定するまでに必要な時間」ととらえることができます。そのような自社で考えていることを、顧客視点に転換することが重要です。 

「自社が売りたい」の反対は「顧客が買いたい」状態といえます。そのときに、なぜ自社である必要があるのか?どんな価値があるのか?そう考えていくことが重要です。 

このように常に顧客顧客で考えていく。 それを自社の戦略に落としたとき「とはいえ」という社内事情が出てきます。そのなかで折り合いつけながら、自社のビジネスモデルで最適な販売戦略を作っていくことが重要です。 

戦略や施策を考えるうえで、「顧客」「自社」どちらの主語で議論しているか、常に組織として整理をすることがスタートラインになると考えます。 

もしカスタマージャーニーを作成してみたのであれば、それに対応する社内の体制はどうなっているか。社内のプロセスを規定するのであれば、各プロセスで顧客が求めていることを整え、「顧客」「自社」のどちらか片方が欠けているのであればこれらを整えていくことが第一歩となると考えます。 

例えば、「お客様がより簡単に問い合わせできるように、ウェブフォームを設ける」とします。
ウェブフォームは特に社内プロセスでの分岐が多く、 

  • 顧客にとって目につきやすい場所にあるか(顧客視点) 
  • 誰が、何日以内に対応するか (社内視点) 
  • 問い合わせ情報はどこに蓄積されるか (社内視点) 
  • フォームの内容は、フォローする人が対応するうえで満たされる内容か (社内視点) 
  • 情報が満たされただけでなく、フォーム入力時に顧客に負荷がかからない設計になるか (顧客視点) 
  • etc 

とこれだけでも顧客・社内の話が入り組んできます。 

顧客視点でのカスタマージャーニーを構築するためには、上記のような仕組みを作って顧客のオンラインオフラインでの情報の把握が必要になります。さらに、例えば自社が保有する技術に関する資料を、いつ・どの顧客がダウンロードしたという記録はデジタルで取得できる一方「なぜ」その資料をダウンロードしたのかは深堀できないケースがほとんどです。真意を確認するには、実際の対話を通じて取得する必要があります。 

顧客にとって快適な「カスタマージャーニー」を構築することは、分業化を通じた自社視点での「タッチポイント」の最適化に向けた取り組みといえるでしょう。そのなかで、一本のシームレスな体験を顧客に届けることを大きな挑戦ととらえ、継続的に取り組んでいくことが重要です。

 

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