リードナーチャリングのあるべき姿 - 顧客は“育成”するものなのか? | MarketOne

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リードナーチャリングのあるべき姿 - 顧客は“育成”するものなのか?

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BtoBマーケティングにおいて、「ナーチャリング」の重要性はいたるところで語られます。

BtoBの商材では、顧客内でのサービス・製品購入に至るまでの検討期間が長いことから、それに伴い営業サイクルも長期にわたるのが一般的です。

それを踏まえると、「ナーチャリング」という形で、案件が自社にとってホットになるまで、顧客との接点を保ち続ける意義は大きいといえます。

リードナーチャリングも含めた、BtoBマーケティング施策の全体像に関しては、下記ツイートに詳しく記載してあります。

マーケティングは欧米を中心として発展してきた背景があるため、多くの関連用語が外来語になっており、ナーチャリングでは頻繁に「育成」という単語があてがわれています。

これについては、「ナーチャリングの元となる“Nurture”を単純に翻訳すると“育成”になるから」ということが要因かと思います。しかし、単純に「育成」という単語で表現してしまうことで、ミスリードを招きかねないという側面もあります。

上記ツイートで記載している図では、ナーチャリングを「啓蒙活動」と表現しましたが、そもそもBtoBビジネスにおけるナーチャリングとは何を意味するのでしょうか?

ナーチャリングは「育成」なのか?

「顧客を育成する」

BtoBマーケティングの文脈において、近年当たり前のように使われる言葉です。

BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ – 顧客視点 vs 自社視点 –の記事でも述べているとおり、マーケティングを行う際には、常に二つの視点から全体像を考える必要があります。

その上で、「育成する」という視点はかなり“自社寄り”だと理解できます。

顧客側からすると、各ベンダーのサービスを使うことは、自社・自身のプロジェクトを成功させるための一要素にすぎません。そのなかで、ベンダー側のマーケティング・営業活動の中で提供できる情報は、顧客の自社プロジェクト成功に向けた取り組みにおける、ほんのわずかな比重でしかないでしょう。

そのような状況下で、「育成する」とまで言い切れるか、多くの場合においてその答えは“否”であるといえます。

顧客の購買プロセスは、高単価の商材ほど複雑性を増します。それは、一度導入した際のリスクが大きいため慎重な意思決定が求められるからに他なりません。

ベンダー視点で着目されるのは多くがこの「商材の価格」となりますが、顧客の意思決定に影響を及ぼす要素はそれ以外にも存在します。たとえば、比較的安価な製品・サービスだったとしても、それにより従来のワークフローを変更しなければならない場合もあり得ます。

そういったケースでは、顧客はユーザーを中心とした社内外のステークホルダーを巻き込む必要が出てくるでしょう。そのため社内工数も含めると「全体のコストがかかる」と考えることもできます。

このような状況はBtoBにおいては多々発生しますが、「ベンダー側の目に見えない顧客担当者の論理」という視点では導入に慎重にならざるを得ないのです。

近年、DX関連のサービスでは、“1サービス単位”のコストを、クラウドの活用などで抑えられるようになりました。一方で、大きなワークフロー変更が求められることが多いため、結局は顧客側に導入負担が生じることも否定できません。

「これまでの慣習」という理由で、行政手続きなどでなかなか判子が廃止できない状況を見ても明らかでしょう。

以上を踏まえると、ベンダー視点で単純に「育成」と定義されるリードナーチャリングは、顧客にとって重要な要素の中の一部にしかすぎないとわかります。

“Nurture”は何を意味するのか?

筆者は「外来語」であるマーケティング用語について論考する際には、しばしば英英辞典でその言葉本来のニュアンスを確認します。

Oxford DictionariesでNurtureを調べてみると、最初に「成長や発達までの間に世話や保護をすること(筆者訳)」との説明が出てきます。これは、日本語にするとまさに「育成」といえます。

しかし、その次を見てみると “to help a plan or a person to develop and be successful” 、つまり「計画もしくは人の発展に寄与し、成功に導くこと(筆者訳)」ともあります。

ただ単に「育成」という文脈よりも、より広義なニュアンスが記載されているのです。

前章で述べた「顧客は自分/自社のプロジェクトを成功させようとしている」という文脈にマッチするのは、まさに後者でしょう。

営業であれば、受注後のサービス提供で顧客に便益を与えることが可能です。しかし、マーケティングが担うのは受注前の前工程であることが多いため、成約後のサービス提供は前提になり得ません。

「マーケティングプロセスでは受注のように契約で定められた物理的な等価交換を行わないため、情報を対価とする必要がある」とは、BtoB企業におけるインサイドセールスのあるべき役割とは?の記事内でも述べた内容です。

そのため、マーケティングが「ナーチャリング」で出来ること・すべきことは、あくまで顧客ニーズにあう有益な情報の提供を通じて、顧客の発展に寄与することといえます。

ナーチャリングでは何を行うのか?

そもそもとして、ナーチャリングの前提となる“マーケティング(Marketing)”とは何を意味するのでしょうか?

コトラー・ケラー(Kotler/Keller)は、マーケティングを最も短く定義する言葉は、「Meeting needs profitably」であると、自著『Marketing Management』で述べています。

この言葉の持つニュアンスを日本語にすると、「顧客のニーズを満たすことで、自社に利益をもたらすこと」と表現できます。

つまり、「顧客のニーズを満たす」だけではボランティアになってしまいますが、ビジネスである以上、「自社の利益」にもつながる必要があるということです。

顧客の発展に寄与できれば、自社の発展につながるということは、感覚的には理解できると思います。では、マーケティングの文脈において、ナーチャリングはどのように自社に貢献するのでしょうか?

それを紐解くための鍵は「顧客の購買プロセス」にあります。コトラー著『B2Bブランドマネジメント』では、以下のような一節があります。

“産業材の購買意思決定を行うのは依然として人である。無感覚の機械ではない以上、人間的な要素の影響を受け、完全に客観的な意思決定にはならない。<中略> 産業材のマーケターにとって重要なことは、購買センター((3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計の記事で解説したBuying Center参照のこと))のメンバーに関する個人的・対人的・組織的な要因について、あらゆる情報を入手可能な限り探索することだ”

つまり、顧客にとって有益となる情報をGiveすることで、顧客の情報をTakeする。その取り組みを続け、“情報”という自社資産を入手することがマーケティングには求められているのです。

定期的な情報発信を続けることで、顧客側でプロジェクトが動くときに、顧客側にとって有益な情報にアクセスしやすい環境を作ることは重要な取り組みとなります。

そのうえでは、デジタルテクノロジーを活用し、テレマーケティング・インサイドセールスとも連動し、日々変わりつつある顧客側の状況を把握しておくことは重要であると言えます。

ただし、自社視点に寄りすぎるあまり、不要な情報を提供し続けてしまえば、それは顧客側からしてみれば、ただの雑音を増やす行為でしかありません。

しかし「何が顧客にとって重要か?」は、マーケティング側からは知り得ないというのも実情です。

それでも、データや情報を集め、仮説を立てることで、顧客のニーズにマッチするように挑戦し続ける。その結果として、提供する情報の確からしさを上げていく取り組みが、「ナーチャリング」を行う上では大切な考え方です。