目次
前回の振り返り
前回から2回にわたり、 マーケティング・オートメーション(MA)を使ったメールマーケティングの指標というテーマで解説しています。前回は、メールが顧客に到達するまでの指標を解説しましたが、後編となる今回は、メールが顧客に到達した後の、オープン数以降の指標を解説します。
*一部の機能や指標の取得の仕方はMAツールごとに異なる場合がございますので、詳しくは各ツールの仕様書・マニュアルの参照をお願いします。
メールマーケティング指標:オープン数
受信ボックスで新着メールの一覧が表示され、そのメールを開くと「オープン」とカウントされます。 では、メールのオープンはどのようにMA側でカウントされるのでしょうか?
MAからメールを配信する際に、HTMLメール内に目に見えない画像(1px x 1px)のPNGデータが組み込まれています。受信者側がメールをオープンしその画像データがロードされたことが検知されると、MA側でEメールオープンとカウントされる仕組みになっています。
メールボックスのプレビュー画面で内容を確認し、興味のある、または深く読む必要のあるメールを開くという人も多いのではないでしょうか。上記の通り、画像が読み込みされた瞬間にオープンと見なされるので、プレビュー段階でも画像が読み込まれていればオープンとカウントされます。 Outlookなどのソフトでは、初期設定でHTMLメールの画像を読み込まない設定になっていることがあります。その場合は、メールを開いても画像は読み込まれないので、オープンとカウントされない場合があります。(先に解説したプレビューの場合でも、画像が読み込まれていなければオープンとは記録されません)
マーケティングに関わる方だと「プレーンテキストメールではオープンが取れない」ということをよく聞くと思います。その背景には、プレーンテキストではHTMLを使用しないことから読み取りの画像が挿入できないため、開封数を取ることができないということがあります。
そのため、オープン数を測る場合は正確にデータが取れない可能性があることは留意すべきでしょう。例えば、プレビューで流しているだけで実際に読んでいなかったり、オープンをしていても計測されていなかったり、ということがあるためです。それでも傾向などは見て取れるため、モニタリングしながら施策を組んでいくことは重要です。
オープン数の影響要素-① 差出人、件名、プレビューテキスト
私のOutlookの受信ボックスでは以下の画像のように、メールの情報が表示されます。
それぞれ、差出人、件名、プレビューテキストの順に並んでいますが、原則、受け手はこの情報のみでオープンするかしないかを判断します。
・差出人
まず、一番上に表示される差出人ですが、最初に気にするのは「メールがどんな内容なのか」ということよりも「誰から来たのか」ではないでしょうか。例えば、私は担当から来た【重要】という件名よりも、自部門の役員からきた「こんにちは」とだけ書かれたメールを優先して開いてしまいます。
企業のメルマガである性格上、差出人に会社名が表示されることが多いと思います。そのため、(マーケティングのみで解決できる話ではないのですが)「会社名」に対する信頼性を上げていくことが重要です。 日系の大手メーカーでデジタルマーケティングはこれから、というお客様も多い中で、長年培った会社への知名度・信頼度のおかげで、メールマーケティングを始めたら反応が良かったというケースを往々にして耳にします。
加えて、メーカーのターゲットは技術者である設計・開発・研究部門であることが多くなると思います。これらの職種の人たちは技術開発のために幅広く情報収集をしている傾向があるため、反応が良かったり、情報提供に好反応を示してもらえたりと、取り組みの成果が出やすいこともあるようです。
ここで、長期的に信頼性を上げる観点でのキーワードとしてあげておきたいのは、「ソートリーダーシップ」です。ソートリーダーシップとは、企業が特定の分野や領域で、革新的なアイデアを発信し先導していくことです。トップランナーとして顧客に役立つ情報を継続して提供し、長期的にソートリーダーシップを発揮する、このようなこともマーケティング施策の1つです。
一方、短期でできる施策としては、メールを身近に感じてもらうために、差出人を営業担当者の名前でメールを送信することなどがあげられます。
短期・長期の取り組みを明確にした上で工夫をしながら戦略を練っていく必要があります。
・件名
次にメールの件名に関しては、こだわってメールを作成することが多いかと思います。いかに顧客が興味を持ちそうなキーワードを入れられるかが重要となりますが、キーワードを詰めすぎて件名が長くなってしまうことをよく見ます。長すぎると受信ボックスで見切れてしまったり要点がわからなくなったり、受信メールソフトによっては全角の文字数が一定以上を超えると文字化けする場合もあったりしますので注意が必要です。
一概に言えませんが、マーケットワンでは20-30字以内でおさめることを推奨しています。このあたりもA/BテストをしながらPDCAを回していくといいでしょう。受信者名を件名に表示して、よりパーソナライズしたメールを送る工夫をしている例もよく見られます。
・プレビューテキスト
最後に、プレビューテキストです。プレビューテキストは、件名ほど重要視されないように見られますが、まとまった文字数の概要を入れることができ、受け手の情報量として多くを占めますのでうまく活用しましょう。
オープン数の影響要素-② 配信タイミング
配信タイミングの調整も考慮すべき要素になります。なぜなら、こちらがどんなにこだわりを持ってメールを作っても、忙しいときにはメルマガを読むことは相対的に優先順位が下がり、読者にとって興味がある内容でも読んでもらえないこともあるからです。
「月曜と金曜のコンバージョンが低い」というメール配信の定説がありますが、マーケットワンでは、エグゼクティブや管理職の方にメール配信をすることが多く、土日にメールをゆっくり確認される方も多いことがわかってきたので、金曜日に配信することが多いです。
このように、定説にとらわれすぎずに自社ターゲットに沿ったタイミングで配信しましょう。状況は日々変わるので、最適な方法をつねに検討しつづけることが重要です。
他のマーケティング手法とメルマガの発信タイミングをうまく組み合わせることも有効です。例えば、展示会などでとある会社のブースを訪問したとします。数日後、その会社からメルマガが送られて来たとしたら、通常だったら開かないのに、ブースに訪問したことでその会社やメルマガ内容に心あたりがあるためメールを開封してしまうのではないでしょうか。
MAでは「特定の顧客が自社のコンテンツを見た」というトリガーをもとにカスタマイズしたメールを送ることも可能であるため、前もって受け手側にメルマガの内容やメールが送られてくる意味に心当たりをつけるなどの施策も、開封率をあげるためには有効です。
メールマーケティング指標:クリック数
クリック数とは、メールを開封(オープン)した後に、メール内に仕込まれたURLのハイパーリンクをクリックしたコンタクトの数です。
MAのメルマガでは「読んで終わり」というよりは、ウェブサイトへの遷移やフォームでの問い合わせなどの次のアクションへの行動を喚起することが最終目的になるケースが多いです。(もちろん営業活動のバリューチェーン全体の最終目標は、受注やその後の顧客満足になると思います)
そのため、メルマガ内には原則リンクが用意されており、そのクリック数は重要な指標になります。ここでもクリック数がMA側でどのようにカウントされているかを述べていきます。
メール配信時、URLにはクエリストリングという文字列が記載されており、受信者ごとにユニークなIDが付与されます。メルマガのURLをよく見ると、https://japan.marketone.com/?xxx=yyy というような形式で記載されていることが多いと思います。xxxの部分にはMAツールで決められた値が、yyyの部分でキャンペーン・アセット・個人の情報が掛け合わされたユニークIDが含まれます。MA側ではこのyyy部分のアクセス状況を見て、どのリンクに、誰がクリックしたかわかる、という仕組みになっています。 ユニークな値へのアクセスを見ているので、条件に左右されるオープン数よりも正確な数値が取れることが特徴です。またURL部分を消さなければテキストメールでも数値の取得が可能です。
注意すべき点はメールの転送です。Aさんがメールを受信し、Bさんに転送してクリックした場合を想定します。もともとAさんにメールを送っているため、転送されたメールをBさんがクリックしてもAさんがクリックしたと判定されます。回避策をMAツール側で持っていることも多く、例えばAdobe社のマルケトでは、Forward to a Friend Link in Emailsという機能が設けられています。
また、MA上でクリックが重要な指標となる大きな理由として、MAのトラッキング有効化があります。MAの主要機能の一つにウェブサイトの行動情報のトラッキングがあり、「誰が・いつ・どのサイトにアクセスしたか」を取得することができます。これはどんな状況でも取得できるわけではなく、専用のトラッキングコードが挿入されているウェブサイト内で個人情報とcookie情報が紐づいている、という条件がそろったときにはじめてトラッキングが可能になります。
今回の記事では詳細は割愛しますが、個人情報とcookieが紐づく代表的な条件としてメールをクリックする、もしくは(MAにホストしている)フォームを提出するということがあげられます。ウェブサイトの行動情報を取得していくために、トラッキングコードが挿入された自社サイトやランディングページへ誘導していくことが重要です。
クリック数の影響要素 – ① デザイン、読み手側の環境
・デザイン
メールを開いた際に最初に目に入るのはメールのデザインです。 メールを作成する場合HTMLメールとテキストメールがあります。HTMLメールは受け手が読みやすいようにHTMLやCSSを活用してデザインをしたメールで、イメージを貼ったり、ボタンを設置したり等の装飾が可能です。
WYSIWYG (ウィジウィグ:What You See Is What You Get)のエディタでドラッグアンドドロップ形式でのメール作成も豊富になってきています。 カスタマイズ性が高いので、マーケティング施策をやるうえで簡単に編集ができ、融通が利きやすいという利点がある反面、作成された成果物がデザインガイドに沿っているかの確認が必要です。
マーケットワンでもクライアントのメールテンプレートを作成する機会がしばしばあるのですが、最初のステップが「ブランディングガイドの確認」です。使用可能な色、ロゴのデザイン、その他の企業ごとで決められている規定に沿っているかを確認します。メルマガも顧客との重要なタッチポイントですのでブランド価値を毀損しないか、きちんと管理しておく必要があります。
また、デザインメールはレスポンシブ対応も重要です。レスポンシブデザインとは、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットなどの異なる画面サイズの幅で最適な表示をすることを指します。 分析ソフトを使ってみたところ、マーケットワンのお客様では約20%前後の方がスマートフォンやタブレットで閲覧しています。他のメーカーのクライアントでも幅はありますが15-30%はPC以外でメールを確認されています。現在、在宅勤務が主流となりつつありますが、今後移動の自由が出始めると、移動中のスマートフォンでの閲覧が増え始めることが予想されます。このような要因を考えてもレスポンシブ対応は重要と言えるでしょう。
しかし、メールのレスポンシブデザインはウェブサイトデザインより難易度が高いということは考慮する必要があります。その理由としては、メールの方が受信ソフトが多岐に渡り、使われているテクノロジーも受信ソフトによって仕様が大きく異なるためです。 セキュリティポリシー上、自社メール以外の使用を禁じられているケースも多く、チェックがやりづらいことも理由として挙げられます。その場合、Emailのテスターを使うケースが多く、マーケットワンでも Email on Acid という製品をグローバルで使用しています。
また、最近だとダークモードの設定をしている人も増えてきました。黒背景に白色の文字で表示されることも多く、デザイン次第では画像が浮いてしまったりと、非常に読みづらくなってしまうので考慮が必要です。 これらをまとめて言えることは、作り手の環境のみを考慮して作成しないということが重要です。
・読み手側の環境
PCで作業するのでレスポンシブ対応を考慮しない、自分のメールソフトで最適化して作るので他のソフトでは崩れがある、という状況は避けるべきです。メールのデザインが大きく崩れているメルマガを受け取った経験がある人も読者の中にはいらっしゃると思いますが、おそらく作成者は作成段階では問題ないという判断しているはずです。
例えば、メールに動きを加えたいのでGIF画像を入れるという施策を入れようとした場合、特定のメールソフトでは動かない、という制約が出たりします。その中で、その特定のメールソフトは自社顧客は何%が使用しているのか?こういった定量的なインパクトを考慮した上で施策検討することがデジタルマーケティングでは重要です。 HTMLを使用せずテキストメールを使用する場合もあります。デザインやコーディングには少なからず工数がかかるので、情報提供を簡易に行う意味合いで重宝されます。また、謝罪目的でメールを送る際は、デザインのメールよりもテキストメールの方がふさわしい場合もあります。
加えて、HTMLを受信しない設定になっている方も一定数いるため、どのプラットフォームもマルチパートメールという形で、①HTMLメールのパート、②テキストメールのパート、2つを同時セットしておきましょう。そうすれば、受信側の選択でHTMLに対応していれば①を、表示の未対応や禁止している場合は②を表示することが可能になります。そのため、HTMLメールだけでなく同時にバックアップでテキストメールも作成することが一般的になっています。
クリック数の影響要素 – ② コピーライティング
メールマガジンは情報を届けるために実施するため、内容となるコンテンツと、それを伝えるためのコピーライティングが重要です。 一番のポイントは「ターゲットとコンテンツの組み合わせ」です。
マーケットワンでは、インサイドセールス機能の支援をしており、トレーニングの提供をしていますが、そのトレーニングの中で「自分の業務内容を説明してみましょう。」というカリキュラムがあります。ここでは、隣の部門の人に伝えるのと、家族に伝えるのでは伝えるポイントも伝え方も変わることに気づくためのトレーニングです。これはメルマガを作成する際にも言えることです。
届けたい想定の相手(ペルソナ)ごとに、提供すべきコンテンツとその伝え方は変わってきます。また、情報を届けたうえで読者に何を感じてほしいのか、どんなアクションを取ってほしいのか、によっても伝え方は変わってくるでしょう。 特にBtoBのメルマガは、読んで完結ということではなくウェブサイトやランディングページに遷移させることが主な役割になります。その読後の行動喚起と訳される CTA (Call To Action)につながる部分をCTAボタンとして目立たせます。
検証のために有名なウェブサービスでは文言・配色・配置場所など何度もA/Bテストをします。ただし、BtoBだと配信母数が限られるケースも多く、n数の不足からあまり有為な比較ができない、ということも多いのが実情です。 これらを実施していくうえでは、ターゲットペルソナを設定し、彼らが抱えている課題の仮説立てを事前にしっかりと行って配信結果をもとにした検証と改善の継続活動が重要になってきます。
このあたりに関しては、書くと長くなるため、また別の記事で解説をしていきたいと思います。 狙いのペルソナがデータベース上にいないケースも多いため、データベースの中にいるコンタクトの属性を把握しておくことも重要です。
メールマーケティング指標:フォーム送信数
CTAの遷移先として多いのがランディングページです。キャンペーン専用のマイクロサイトとして、企業のウェブサイトとは別に設けられることが多いです。
ホワイトペーパーやeBookと呼ばれるお役立ち資料を無料で提供する代わりに、フォームを活用して顧客へのアンケートを実施することが多いでしょう。その際にフォームの送信数というのが、キャンペーンにおけるデジタル上の動線の最終地点になるため、ゴールの指標になるケースが多く見受けられます。 ランディングページを見てフォームの送信をするか否かが判断されるため、メール同様、ランディングページのデザインやコピーライティングなどが重要になります。
その中でも重要なのがフォームの項目とフォームの数です。フォームの質問数を増やすと、入力側は煩わしさが増える一方で、マーケティング側としては多くの情報が手に入ります。しかし、質問数を減らすと入力側は楽になる一方で取得できる情報量が減る、というトレードオフの関係になります。 フォームの情報取得の戦略はフォームストラテジーというお題として、改めて書いていきたいと思います。
最後に
計2回にわたって、メールマーケティングにおける指標をもとに、ポイントを解説してきました。
マーケティングオートメーション(MA)を活用したメールマーケティングを実行していくうえで、マーケティング部門に加えて、IT部門、コンテンツ提供元となる部門、フォームで取得した情報を活用する後工程となるインサイドセールス・営業部門など、各部門と連携しながら進めていく必要があります。
MAに直接的に触らない関連部門の方々は、今回解説した指標になじみがない場合もあると思います。そういった方々への説明の際に、今回の記事の内容をご活用いただければ幸いです。