【ストーリー】 困難も楽しみながら、技術で挑む他流試合|ヤマハモーターエンジニアリング | MarketOne

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【ストーリー】 困難も楽しみながら、技術で挑む他流試合|ヤマハモーターエンジニアリング

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大企業のグループ会社は、安定した経営基盤のもとに事業を営む強みがある一方で、変化のスピードが速い外部環境との接点が希薄になりがちでもあります。強みと弱みが表裏一体に存在することを認識した上で、あえて外に飛び出して挑戦する選択をしたのが、ヤマハモーターエンジニアリング株式会社の“技術外販”です。事業を通して培ってきた技術を武器に、既存の事業や業界の外側で市場価値つくろうと試みてきました。

約5年におよぶ手探りの挑戦は少しずつ結実していき、いま、さらなる飛躍への道筋を描こうとしています。今回はマーケットワン・ジャパン代表の山田 理英子が、同社の事業企画推進部 部長の永田 一氏、同部技術外販グループリーダーの佐藤 卓氏、そして先行技術開発部 部長の松枝 秀樹氏にお話を伺いました。

不安と焦燥から、殻を突き破って外の世界へ

山田理英子(以下、山田):今回、技術外販による価値創造と挑戦に関するお話を伺いますが、そもそも御社における技術外販とはどういう位置付けなのでしょうか?

永田 一(以下、永田):当社はヤマハ発動機の100%子会社として、モーターサイクル等の開発受託が売上の9割を占めています。残りの1割を担うのが我々の部門で、当社の技術を生かして外部企業、ひいては社会の課題解決に対する技術貢献を目指しています。

ヤマハモーターエンジニアリング株式会社 事業企画推進部 部長 永田 一氏

松枝 秀樹(以下、松枝):1980年に当社が設立された時から、ヤマハ発動機の技術の一翼としてグループの外側にも踏み出し、そこで得た技術をグループに還元していくという役割が与えられていました。消防用電動ホースレイヤーやトンネル点検ロボットといった分野での外販は長年行っていましたが、技術力を軸にモビリティ試作ビジネスの外販を推進しようと舵を切ったのが、2021年頃。先行技術開発部(以下、先技開)が、展示会にコンセプトモデルの2WDの電動小型オフロードバイク「BiBeey」を開発・出展したのが始まりです。

山田:親会社からの受託案件があって、御社の経営はいわば安定していますよね。あえてグループの外に出ていく心理的障壁はなかったんですか?

佐藤 卓(以下、佐藤):むしろ、外にある可能性に惹かれて能動的に動いたという方が正確かもしれません。親会社の機能の一部だからこそ、安定と引き換えにいろんな感情も生まれてくるんですよね。声にならない不安感や、主人公になれない焦燥感、自分たち主体で顧客に価値を直接届けてみたいという願望などは、潜在的にあったと思います。

山田:「だけど、このままでいいや」ではなく「よし、外に出ていこう」という機運が盛り上がるのは稀有だなと感じます。

松枝:その時々の経営陣の意思決定や中期経営計画に従う必要はありますが、やはり、内にこもっていてはダメだ、という内発的動機は強まっていたんですよね。先技開も、社員自らが必要性を感じ、組織の設置を役員へ提案して立ち上げられたんです。

ヤマハモーターエンジニアリング株式会社 先行技術開発部 部長  松枝 秀樹氏

松枝:ずっと内向きのままでは「我々は、本当に技術力が高いのか?」と疑心暗鬼になりますし、親会社からの受託に安住していると自分たちは絶対に劣化していく。何とかしなければ……という切迫感が漂っていましたね。それで、2019年に先技開の前身のグループを立ち上げ、技術を獲得して進化するための他流試合に踏み出しました。

圧巻のスピードで最短距離を突き進む

松枝:BiBeeyを展示会に出した後、多数の反響がありました。何よりありがたかったのは、リアルなニーズを直接聞けたことですね。逆に、ヤマハ発動機=バイクというイメージゆえに「このBiBeeyはいくらで売るんですか?」と訊かれたりもしました。我々の狙いは技術外販の可能性を探すことであって、BiBeey自体を売りたいわけではない。ただ、思惑とは違う反応もひっくるめて、手ごたえを感じた1年目でした。

山田:翌年も展示会に出展を?

松枝:はい、2022年は4軸4操舵の「Natchey」というコンセプトモデルを出展しました。さらに、顧客探索の機能を事業推進センター(現:技術外販グループ)に移管したり、組織や人員の整備と合わせて営業活動計画も立案したり。

山田:初手のBiBeeyで得たフィードバックから改善したNatcheyが生まれ、さらにぐっと前進されていますね。この時点で営業活動の計画に至るなんて、スタートアップのようなスピード感だと思います。

永田:少数精鋭の部隊なので、意思決定は確かにとても速いです。承認を得ようにも、上司が多忙で会議の時間すら取れない会社も多い中で、我々はワイガヤでとにかく意思決定し、経営に最終承認をもらうようなシンプルさですから。会社に新規事業のノウハウやスキームがないがゆえに、まっすぐ突き進んでいける利点はあるかもしれません。

受注獲得で証明した挑戦の意義と価値

佐藤:2023年には「新しいモビリティの試作開発」という注力領域の方針が決定しました。引き合いも出始めたので、事業を回す役割として私が事業推進センターに異動しました。最初の受注にこぎつけたのも、この年です。

ヤマハモーターエンジニアリング株式会社 事業企画推進部 技術外販グループ グループリーダー 佐藤 卓氏

松枝:展示会でNatcheyを見た企業の方に「こんな機能が欲しかった」と言われたのは感動でしたね。やりたいことはあっても、どうやって実現したらいいかわからないという課題に、当社の技術がガチっとはまったんです。BiBeeyやNatcheyは一品物で、それ自体が利益を産むわけではありません。だからこそ、これらをフックに受注を獲得できたのは技術外販として理想的ですし、喜びはひとしおでした。

山田:やっぱりうれしいですよね。でもそれは裏を返すと、意義ある挑戦と自認してはいても、既存事業からの見られ方も気になるというか……。

松枝:それはありましたよ。既存事業は、図面の納期を守れなければ工場の稼働が止まってしまうという世界です。片や、我々はお金と人と時間を充てて、誰がどう使うのかも定かではない一品物をつくっているので、既存事業の人たちも先行投資に関する不安や懸念はあったかと思います。受注してお金を生み出せたことで、我々も遊びじゃないんだと伝わったかな、と自信が持てたのもこの頃かもしれません。

他流試合に臨む異端のプロ集団

山田:佐藤さんは、社内の他部署として技術外販をどんなふうに見られていたんですか?

マーケットワン・ジャパン合同会社 代表 山田理英子

佐藤:社内の技術交流会などを通して、私も異動前から先技開の取り組みは知っていたものの、「なにか新しいことを始めたんだな……」と認識する程度でした。まさか自分がその事業に携わることになるとは思いませんでしたが、やはり実績が生まれると見られ方も変わると実感しました。

山田:コストセンターからプロフィットセンターに変化した第一歩ですしね。

永田:総論としては、新しい挑戦に反対する人なんていないんです。でも各論レベルでは複雑ですよね。従来の受注生産方式ではなく、我々が施主となって顧客と直接向き合わないといけないので、「そんなやり方は経験がない」「なぜそこまでしないといけないんだ」というハレーションもあったと思います。

松枝:それに、ヤマハグループからの受託業務に満足を感じている人たちも非常に多いですし。我々みたいに望んで他流試合に出て行こうとする方が少数派かもしれません。

山田:逆に、そういう思想に共感してアクションできる人たちだからこそ、挑戦に切り込んでいく先鋒として集結されたんでしょうね。

愚直なPDCAで躍進の突破口を開く

山田:最初の出展から3年越しで受注が叶ったわけですが、勝因は何だったと思われますか?

佐藤:ヤマハ発動機の製品開発で培った技術を活用して、顧客のニーズを具現化できたことは、やはり一つの大きなポイントですね。組織や体制はまだ発展途上ですが、既存事業と一線を画する開発に対し、関係者が一丸となって右往左往し続けてきた積み重ねが、事業化の芽を育む力になったと思います。

松枝:確かに、まずは展示会に出てみる、使い手のリアルな声を聞く、改善を考える、仮説のもとに試してみる……と、ひたすら愚直にPDCAを回し続けた結果の今ですからね。そのおかげで、狙うべき市場や技術が徐々にクリアになり、だからこそ最初の展示会出展からたった3年で、建設や医療など特定の環境や現場で活躍するモビリティの試作開発にまで解像度を上げることができました。

匠たる矜持をブランドネームに

佐藤:同時に、我々自身のアイデンティティとして組織のネーミングやロゴ、Webサイトも立ち上げました。それが「MOBILITY KŌBŌ」です。

山田:名付けることで、ブランドとして確立させられたんですね。技術外販と呼ぶだけでは不十分なんでしょうか?

佐藤:やはり“ヤマハ”のネームバリューの威力は非常に大きくて、プラスに働くこともあれば、二輪のイメージが強くなりすぎることもあるんですよね。部のメンバーとの対話の中で、サービスを象徴するネーミングを考えようという意見が出てきたのがきっかけでした。「工房」には、職人や匠といった響きがあります。技術を駆使してお客様のオーダーを実現し、喜んでいただける試作機を提供するイメージを想起させたいと考え「MOBILITY KŌBŌ」となりました。当社の強みは技術力ですからね。

松枝:技術外販は特定の顧客に向けた手作りが本質なので、「工房」という表現はしっくりきました。我々の提供価値を広く知らしめるためにも、大々的に発信しています。

山田:御社の技術外販の強みや方向性がクリアになり、認知獲得やさらなる受注拡大のフェーズに入ったんですね。

今、必要なパートナーとの出会い

佐藤:技術は先技開が担ってくれるので、我々は外販の売り先を探さなければいけません。受注実績はあったものの、自前で新規顧客を見つける難しさも感じていました。我々の想いを汲んでフィードバックしてくれるパートナーを探すなかで、マーケットワンさんに出会ったんです。

山田:非常にうれしいお言葉ですね。出会うタイミングって非常に重要です。価値や市場を模索する段階では、手を広げて数を打つ手法が適しています。そのフェーズだったら、当社のソリューションは御社にそれほどフィットしなかったかもしれません。自分たちが何者で、どんな価値を提供できて、どんな企業にその価値を届けるかがクリアになると、手法は“広く”から“深く”に変容していきます。我々としても、とても良いタイミングで見つけていただけたと思っています。

永田:私は部門長として状況をより客観的に見られる立場にいますが、こんなにたくさんのお声がかかるなんて、と驚いています。商談が多すぎて、佐藤さんがうれしい悲鳴を上げているくらいです。

松枝:それまでは、展示会出展の一本足打法でしたからね(苦笑)。我々は営業のプロではなく、ほとんどの社員が設計者の会社です。技術を外販しようにも、知らない、わからないことばかりのフィールドで、それでも勉強しながら何とかやってきたんです。

未知の挑戦から逃げない、楽しもう

山田:「知らない、わからない」とおっしゃるものの、営業戦略やブランディング、顧客の声の分析から技術へのフィードバックなど、営業のプロのようなアクションを自然となさっていますよ。

松枝:思想的な話ですが、「とりあえずチャレンジしよう」というシチュエーションが嫌いじゃないというか。そういう状況を楽しめるタイプが集っていると思います。

佐藤:技術外販グループのビジョンに「困難さと面白さを経験」というフレーズがあります。試して、考えて、改善して、とにかくチャレンジしなければいけないし、その歩みを楽しもうという思想が表されています。

マーケットワンさんにお願いして、当社だけでは到底リーチできなかった企業のリードがどんどん増えてきました。我々の知見も増え、今後の事業拡大に向けたシナリオの見通しも立ったので、より良い関係を築いていく工夫も今後考えていきたいと思っています。

次なる挑戦はビジネスモデルの確立

山田:2021年から技術外販に本腰を入れ、急拡大の5年間だったと思います。最後は、ここから先の展望についてお聞かせください。

永田:技術外販は投資部門として事業展開を模索してきましたが、今後は事業拡大と収益性を考えるフェーズに来ています。このスピード感でやってこられたのは、経営陣の理解と後押しがあったからで、当然、この先の期待もひしひしと感じています。

事業拡大に連動して人も増やす手法では、ダメなんです。数をこなせば売上と利益も上がるでしょうが、我々が求められているのは人工売りではなく、ナレッジ化した技術で対価を得るビジネスモデルを確立すること。ここがまさしく今後の挑戦ですね。

松枝:中期経営計画でも、明確に売上目標も掲げられています。タフではありますが、着実にステージアップしていると実感しています。外に出て得た技術を親会社に還元するという当初の目的は変わりませんが、新しい市場や顧客への技術外販によって、親会社も持っていない知見が当社にはある、というアドバンテージができてきました。まずは動いて、フィードバックをもらって、考えて、またやってみる……、会社ビジョンである「技術で人を笑顔に。」できる道を探索していくのみです。

佐藤:先技開をはじめ、多様な経験を持つメンバーが揃っていますが、チャレンジが好きで好奇心が強いんですよ。ビジネスなので当然責任はついて回りますが、会社から渡された御旗を掲げて「やっていいんだ、だから、やるんだ」と腹を決め、より一層突き進んでいきたいと思います。

山田:皆さんのお言葉の端々から、守られた場所から飛び出し、地図のない冒険を楽しむかのような心意気を強く感じました。目先のこだわりにとらわれず、社会課題というレイヤーで技術貢献を模索しようとする姿勢こそ、挑戦から成功への道筋を描いた原動力だったんだろうと思います。本日はありがとうございました。

プロフィール

永田 一
ヤマハモーターエンジニアリング株式会社
事業企画推進部 部長 技師
入社して外販事業に携わった後、長年オートバイ開発のプロジェクト推進を経験。2024年から事業企画推進部部長に就任。

松枝 秀樹
ヤマハモーターエンジニアリング株式会社
先行技術開発部 部長 技師
入社後、長きに渡り電動スクーターのモーター制御開発に携わる。先行技術開発部立ち上げ時より、展示会出展など草創期から技術外販事業を牽引してきた。

佐藤 卓
ヤマハモーターエンジニアリング株式会社
事業企画推進部 技術外販グループ グループリーダー 技師
入社当初にオートバイ開発、その後ヤマハ発動機製品の電子システム開発を十数年経験し、2023年に当時の事業推進センターに異動。2025年グループリーダーに就任。

山田 理英子
マーケットワン・ジャパン合同会社 代表
2006年にMarketOne International Groupのアジア初拠点であるマーケットワン・ジャパンを設立。以来17年間代表を務め、日本市場向けのサービスと体制づくりに従事。2016年より、世界に8拠点をもつMarketOne International Groupの Senior Vice Presidentを兼任。

Text:Aki Kuroda
Photo:Takumi Hatano
Edit:Tomoko Hatano