はじめに
本記事の配信日は2022年3月11日であり、11年前のこの日は我が国では忘れることができない東日本大震災の3.11の日でもあります。
当時の2011年の日本経済は、デフレ・株安・円高などが起こり、企業が活動を続けるうえで苦しい時期でした。そんな苦境の中でも日本企業は“筋肉質な経営体質”の構築に向けた取り組みを続けました。 その結果、日本経済新聞社によると、その後の「大胆な金融緩和」と相まって、2022年3月期はコロナ禍にもかかわらず5社に1社が最高益になる見通しとなっています。
一方で、2022年の足元に目を向けると、各国でのインフレ懸念が高まっています。 アメリカ労働省が2月10日に発表した1月の消費者物価指数は、前年同月比で7.5%上昇した数値でした。 加えて地政学リスクからエネルギー価格の上昇が続いており、インフレ傾向が顕著になってきています。
インフレが続く世界、賃金が上昇しない日本
世界的なコモディティを中心とした原材料費の高騰を受けて、日本でも消費財も含めコストプッシュ型での値上げが続いています。
にもかかわらず、2月18日に公表された日本の消費者物価指数における1月度の数値は前年度比0.5%と、前述の米国における7.5%や、EUでの5.1%と大きく離されております。
この状況に対し、早稲田大学ビジネススクールの入山教授は、2月18日にテレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』の中で「日本はデフレの期間が長く、価格を上げづらい構造が存在する」と述べています。
コストは上がるものの、価格転嫁ができない構造から固定費を圧縮せざるを得ない。そのため賃金成長率は伸び悩む状況に陥っているということです。 その結果、ILO世界賃金報告によると2008年から2019年における実質賃金上昇率において、日本はマイナスを記録しています。
そのため、「モノの値段は上がるが、給料が伸びない日本」の構図が出来上がっています。
今回はそもそもなぜ価格転嫁できない構造となっているか、マーケティングの視点から考えていきたいと思います。
BtoBにおけるプライシングの重要性とその難しさ
商品価格は、マーケティングミックスと言われる4Pの1つである「Price (プライス) 」を占める、マーケティングを構成する重要な要素のひとつです。
価格設定に関しては「自社・競合・市場など複数の要素を加味して決定する必要があり複雑である((Kotler, Keller Marketing Management Global Editionより))」とコトラー著の『マーケティングマネジメント』にも記載がある通り非常に難しい問題と言えます。
マーケティングマネジメントで述べられている価格設定の手法のひとつに「マークアップ・プライシング」が挙げられます。これは自社の原価に対して必要な利益や代理店コストを載せていく方法です。
“コスト志向 ”とも呼ばれますが、この方法では原価上昇の際に利益率も一律となります。材料費の高騰などの変動費を加味すれば、理論上は一定の利益の確保ができるでしょう。ただし、人件費などの固定費上昇トレンドを加味した値上げができなければ、上記のように「賃金上昇率が上がらない」状況に陥ってしまいます。
その反対が「市場で受け入れられる価格」から逆算して設定する「知覚価値価格設定 (Perceived-Value Pricing)」と言われる方法が代表的です。
この場合、高く受け入れられるためのモノづくりと売り方ができ、しっかりとコストコントロールができれば高い利益を得られます。
しかしBtoBの事業体においては、この方法の実現難易度は低くはありません。
その要因の一つはBtoBでは「実際の販売価格がわからない」という事情があるためです。例えば、定価に対して大口の顧客には大幅なディスカウントをすれば、競合に負けしてしまい失注してしまうと、入札結果が公表される公共の案件を除いて価格を知ることが難しいでしょう。
このような条件がBtoBビジネスにおける“市場価格”をわかりづらくしている要因であると言えます。
加えて、具体的な「受け入れられる価格」はその製品やサービスからどれだけ価値を感じられるかに依存するため、従来以上に顧客のインサイトに深く入り込む必要があります。
顧客側から見ても「使ってみないと適正価格かわからない」という側面もあるかもしれません。
そのため、知覚価値価格設定を成功させるためにはマーケティングリサーチだけでなく、営業との深い連携をした上での市場調査、顧客企業からのフィードバックが求められます。
前述のマーケティングマネジメントの中では「競合よりもよりユニークな価値を持ち、見込み顧客に示していくことがカギとなる。そのためには顧客の意思決定プロセスへの深い理解が必要である」と述べられています。
それは、同ブログ内のニーズ・ウォンツ・デマンドに関する記事で述べた顧客に対する深い理解に他なりません。
マーケット・インでの顧客価値のあるモノづくりをし、顧客に適切なメッセージを届けつつ、情報を見極めた上でのより高い価格をつけられるようにする取り組みは、自社のマーケティング資産を活用した総力戦ともいえるでしょう。
今こそマーケティングへの取り組みを
もちろん、適切なプライシングだけで現在の日本の閉塞感がなくなるわけではありません。賃金上昇には、政府が企業に依頼するだけではなく、雇用の流動性などのマクロ施策も重要になります。
しかし、「成長なくして分配なし」と現政権が言う一方で、成長戦略が見えてこないのも事実です。 とは言え、状況を打破するためには日本企業が苦境の中で行ってきたように、これまで通りの努力を続ける必要があります。
かつて福澤諭吉が「自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行う」との意味を込めて「独立自尊の精神」を唱えました。これは現在の我々にこそ言えることではないでしょうか。
VUCAの時代となり、これまでの常識・慣習がそのまま使える状況ではなくなりました。常識を壊し、新たなマーケティングを実装することが企業にとって重要になってきています。
マーケットワン・ジャパンでは「マーケティングで変革を実現するベストパートナー」を理念に掲げていますが、マーケティングへの取り組みは今後の日本を支えるカギになると信じています。
マーケティングの力で日本企業の変革に挑戦したい、企業の変革に伴走したい、その理念に共感し共に働く仲間を募っております。興味のある方は下記LinkdInの投稿を一読いただければ幸いです。
BtoBマーケティングスペシャリスト – Digital & Consulting 部門
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