MA(マーケティングオートメーション)はマーケティング施策の加速につながる非常に強力なツールであり、日本においてもDX推進の機運を受けて多くの企業で導入が進められています。
同ブログにおけるMA(マーケティング・オートメーション)の全体像とは?自動化を成功させるための必要知識の記事内では、日本では海外に比べて独自の解釈がされているMAの機能や役割について、グローバルな知見を持つマーケットワンの考えをもとに解説しました。
そのなかでは「MAの主要機能は自動化」であると述べており、特に重要なポイントとして以下の3つをあげています。
- キャンペーン・プログラム
- リードマネジメント
- マーケティング業務
本稿では、この内容を踏まえつつ、MAを活用した自動化を達成するための考え方を紹介します。
「自動化」は施策やシステムだけ考えていても始まらない
「マーケティングの自動化」について考える上で、多くの方が思い浮かべるのは、「シナリオに沿ったステップメール」に代表されるマーケティングキャンペーンの自動化でしょう。
実際、MAを使えば「メールオープンしていない人に再送する」などのプログラムを自動で組めますので、大幅な工数減につながります。
しかし、マーケターとして常に考えるべきは細かな施策やシステムそのものではなく、「そもそも何のためにそれを行っているのか」というビジネス上の大目的です。
日々の業務に忙殺されてしまうと、手段と目的が逆転してしまうことが往々にしてあります。
さらに言うと、MAはITツールですので“システム”として捉えられる場面も多いでしょう。MAの導入では、IT部門とも連携しながらシステム構築を進めますが、マーケティングが「自動化プログラムの設定」だけを見ていると、具体的なビジネス効果が不明瞭になっていきます。
そのため、マーケティングとしては、ビジネスサイド・ITという枠組みや、営業・マーケティングなどの部門間の垣根を越えて、具体的に自動化を進めて何をしたいのか、それがどんな意味を持つのかを考える必要があります。
その際に必要なのは
- 「そもそもとしてのビジネスのイニシアティブは何か」
- 「マーケティングに求められることは何か」
- 「そしてそれをシステムで叶えるにはどのように活用すればいいのか」
といった、上位目的から逆算した問いの設計と要件定義です。
これらを踏まえつつ、自動化をする上で特に重要といえるのは、以下の3要素が一体となり成り立っている状態です。
- ビジネス戦略
- プラットフォーム戦略
- データ戦略
上記3要素の具体的な内容については、次項から見ていきましょう。
ポイント1: ビジネス戦略
「マーケティングへの取り組みでは正しい目標設定をしないといけない」とは、同ブログのデマンドセンター構築を推進するフレームワークを解説の記事でも解説した通りです。
MA導入のようなマーケティング戦略を実行する上では、顧客インサイト・ニーズについて深掘りし、それに対して「自社にどんな価値があるのか」に関する「バリュープロポジション」を考える必要があります。
まずはこれらを抑えてから、「やりたいことは何か」「顧客とどのようなコミュニケーションをとればいいのか」といった、施策レベルの検討に入るステップを踏むことが重要です。
BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ – 顧客視点 vs 自社視点 –の記事では、「“自社視点”で顧客へのアプローチだけ考えても成果には繋がらない」との旨を述べましたが、顧客と対峙する上では、顧客ニーズを捉えること、社内における最適な仕組みを整えることの二軸が同時に成り立っている状態でなければなりません。
マーケティングについて考える際にマーケットワンでは「4P」のフレームワークを用いています。それは「マーケティングプログラム」「社内プロセス」「オーナーとなるピープル」「プラットフォーム」の4つのPで整理して考え、各要素がきちんと連動しているかを注視するものです。
これらを整えた上で、シナリオメールや、それに反応したユーザーへの社内対応を考える。その上で、そういった施策レベルの要件をプログラムに落とせるように言語化していくことがMA導入においては重要です。
ポイント2: プラットフォーム戦略
導入するMAを選定する際に「どのツールを選ぶか」という問題については、各社の思想を反映させることが大切であり、多くの場合は要件を出しながら決めていきます。
その際に多いのが、「MAはマーケティング主導で入れる」「SFA(CRM)は営業主導で入れる」といったように、結果的に部門間のアラインがとられないまま運用が進んでいくケースです。
以前の記事でも述べているとおり、MAとSFAは連携(インテグレーション)することで初めてその効果を最大化できます。
そのシステム連携を果たすためには「データのやり取り」のみを考えてしまいがちです。
一方でインテグレーションは「統合」と訳されるように、CRM連携においては、部門間を横断したプロセスの統合と、それに伴うKPIの統合が本質的な意味合いとなります。
MAの持つ機能を最大限活用するためには、MA単体で運用する絵を描くのではなく、こういった「ビジネス戦略から紐解いたプラットフォームの全体像」の視点で戦略を勘案しなければなりません。
ポイント3: データ戦略
MAではすべてがデータで判断されますので、テキストデータを入力する際に、きちんと要件定義がされていなければ適切なデータ分析ができないでしょう。
例えば、筆者がかつて遭遇したケースでは、技術者に対してメールをカスタマイズして配信する施策において、データの入力ルールが決まっていないため、「技術者」という意味の単語だけで100通り以上存在しているデータベースを見たことあります。
その事例では、技術者・エンジニア・Engineer・Enginer(タイプミス)など、レパートリーが多くなりすぎてセグメンテーションができていませんでした。
MAで業務の自動化を図る上では「顧客のフォームへの入力」「マーケティングのデータのアップロード」「営業の顧客情報の入力」といった、データ流入ポイントを洗い出した上で、入力ルールを整えなければなりません。
その上では、MA・SFAで統合されたデータの仕様(=データディクショナリー)を作成する必要があります。
一方で、こういった仕組み作りは多くの企業にとってはチャレンジングな取り組みでしょう。
例えば、データの仕様に落とす際に、「自社製品が使われている用途を定義化したい」と考えれば、自社の使用用途を抜けなく、ダブりなく「MECE」に因数分解しなければなりません。
多くの場合、そういった情報は関係者の頭の中にあったり、既存の用途だけを考えてしまえば新規ニーズを拾えなかったりするため、取りまとめは困難なものとなります。
さらに、別でよく見られるのが「名寄せ地獄」です。前述した「技術者」の例のように、煩雑になってしまったデータを担当者がひたすらマニュアルで綺麗にし続ける作業が発生します。
その際に考えないといけないことは、「名寄せをするのを当たり前だ」とは考えず、MA導入の初期段階から入力規制などの「ハード面」と、運用ルールの整備といった「ソフト面」のバランスをとることです。
その上で最も重要なことは「そもそもとして名寄せを必要としない仕組みをいかに作るか」であると言えます。
目的を見失わず、小さな成功の積み重ねを
MAを使ってマーケティングプロセスの自動化を図る上では、ビジネスとデータの双方に焦点を当てつつ、運用の全体図を描くことが求められます。
まずは、自社全体からマーケティングが実行するべきことを導き出し、自社のデータベース状況を把握しバランスを見ながら運用体制・ルールを構築することが重要です。
これはシステムを構築し、ツールを実装しただけで実現できるものではありません。そのため、MAによる自動化は、多くの日本企業にとっては大きなチャレンジとなる取り組みですが、一方でしっかりと成果を出せればとても心強いツールにもなります。
自動化に関してはいきなり全てが上手くいく訳ではないことは念頭におくべきです。
一番重要なことは、「まずはメールを配信してみる」「まずはランディングページを作ってみる」といったように、一歩一歩を積み重ねることです。
頭でっかちに考えていても何も生まれないため、まずは動きながらトライ&エラーの経験値を重ねることも、会社としての重要な集合知になります。
合わせて言えることは、実行の過程で「何のために行うのか」を忘れないようにすることも大切ということです。
その際、マーケターに求められるのは、常に単独で考えるのでなく、将来的な発展性や使われ方を見据えて、施策単位も全体的な大目的も捉えられる視野の広さと言えるでしょう。