BtoBのマーケティング担当は、見込顧客の獲得や売上拡大といった事業ミッションを達成するため、さまざまな施策に取り組んでいます。リード獲得を目的とした「セミナーやイベントの企画」「広告運用」といったものに加え、リードナーチャリングのための「コンテンツマーケティング」「MA運用」などが代表例としてあげられます。
このように、マーケティングの業務は多岐にわたるため、「本来はマーケティング戦略の立案・企画に多くのリソースを割きたいが、日々のオペレーションに忙殺されてしまう」との悩みが発生するケースは多々あります。
その課題に対する解決策のひとつが「業務の標準化」です。同ブログ内のマーケティング領域で求められるプロジェクトマネジメントの定石でも述べているとおり、流動的なプロジェクトを体系立てて標準化し、プロセス・マニュアルを整えて定常業務に落とすことで、業務の生産性向上や属人化を防げます。
筆者は、マーケットワン・ジャパンにおいて顧客のMA運用コンサルティング・実行支援と並行して、社内のマーケティング活動として毎週欠かさず本ブログの告知やメール配信を行っています。
専属部門を設けずとも最低週1本のメール配信を継続していますが、これが実現できる背景には、メール配信にかかる業務の標準化ができていることが、要因としてあります。
本稿は、そんな筆者の経験を基にして、MAを使ったメール配信において、「コンテンツの準備」「配信プロセス」「プロダクション(アセットの作成)」の3つの工程を標準化する方法を解説します。
目次
1.キャンペーンカレンダーによる「コンテンツの準備」の標準化
メール配信するうえでは、スケジュールどおりに配信するためのコンテンツの準備が重要です。一方で、「コンテンツがない」「コンテンツを作るにしてもテーマがない」といった課題は往々にして発生します。
これを解決するためには、「キャンペーンカレンダー(企画管理表)」を用意し、プロジェクトメンバー全員で配信メールのテーマについて議論することが重要です。
その際には、週1回など定期的にメンバーで集まり、先々の配信に関するテーマを議論してカレンダーを埋めていきます。ストックしておいた方が良い題材数については、コンテンツ作成から、メール配信までにかかる工数や配信頻度によって変動しますが、週に一本メール配信するマーケットワンの場合は、常に4~5本(=1カ月分)は用意しています。
コンテンツのテーマは毎回新しいものである必要はなく、時間をかけずに準備することもできます。例えば、ホワイトペーパーをリリースしたらその解説記事を書いたり、イベントに登壇したなら発表資料や資料の解説記事を書いたりして、既存のコンテンツの2次、3次利用も視野に入れれば効率的に準備できます。また、既存のコンテンツを再利用したうえでメールの件名やコピーを変えて再送したり、プレスリリースなど社内のアセットを利用したりできます。
このように、配信コンテンツの題材が最初は思い浮かばなかったとしても、関係者間で知恵を絞ることでテーマ出しができます。
それを補助する役割として、コンテンツを一元管理できるコンテンツマップも併用すれば、どのようなテーマが不足しているかについて可視化されますので、より効果的な議論やアイデア出しが可能です。
マーケットワンでは、下記のようなキャンペーンカレンダーを用意し、オンラインファイルのストレージに保存してメンバーがいつでも閲覧できるようにしています。コンテンツマップに加えキャンペーンカレンダーを運用することで、週次の社内会議において、決定済みのキャンペーンの題材にかかるコンテンツ作成のオーナーや納期、今後配信できそうなテーマ決めを効率的に行えます。
2.MAにおける「配信プロセス」の標準化
MAを活用すればメール配信の自動化が可能ですが、そのためにはさまざまな要素を加味した設定が必要です。
メールキャンペーンの詳細を詰め、MAで各アセットの作成を行う。そのうえで、設定周りのダブルチェックまで実施する必要があるなど、メール配信を行うまでには多くのタスクがあります。
一方でこれらの「裏側の」業務に関しては関連部門からは見えにくく、どれくらいの工数がかかるのか理解をしてもらえないことも多いのではないでしょうか。
例えば、日常的な配信に加えて「このコンテンツで1週間後にメール配信をして欲しい」「来週のイベントに向けて、3日後にメール告知をして欲しい」といったように、社内の他部門から短納期かつスポットで依頼されるケースも多いのではないでしょうか。
さらに、コンテンツが仕上がるまでにスケジュールが後ろ倒しになる場合もあり、仮にそれを人力で修正しようとするとミスの発生率が高まってしまいかねません。メールは一度流れてしまうと修正できず、誤送信などが起こると取り返しがつかないため、“ミスを増やさない仕組みづくり”が求められます。
そのうえで、メール配信にかかる作業について理解を得るため、各工程を可視化する必要があります。
メールの配信プロセスを可視化し、標準化するためには、「タスク」「各タスクにかかる工数・日数」を定義しなければなりません。
例えば、以下のようにメール配信から逆算して「いつまでに何をやらなければならないのか」についてのスケジュール立てを行います。
- 配信日の10営業日前にコンテンツ完成
- 配信日の7営業日前にメールコピー完成
- 配信日の6営業日前にアセット作成を指示
マーケットワンでは「企画から実行までのプロセス/タスク」「SLA(誰がいつまでに何を行うかの合意)」「各工数」「コンテンツオーナー」をまとめた表を作成し、それをもとにメール配信を行っています。
これにより、マーケティング部門のメール配信における標準化と、営業など他部門からの配信依頼を受けた際の期待値調整が可能になり、配信までのリードタイムを十分に確保することで作業ミスが生じるリスクを低減できます。
3.メール配信における「プロダクション(アセット作成)」の標準化
コンテンツやメールコピーが固まったら、次に「プロダクション(アセットの作成)」の工程に移ります。その際、口頭やメールなどによる情報の共有は設定の抜け漏れが起こりかねないため、マーケットワンでは、「インテイクドキュメント」と呼ばれる、プロダクションに必要な要件を1枚にまとめた作成内容指示書を用意しています。
指示書については、必要な要件詳細を所定のドキュメントにまとめ、その内容をベースにアセットの作成を作業者に依頼します。
プロダクションにかかる業務を標準化するためには、ドキュメントに落とすプロセスはもちろんのこと、ドキュメントそのものに関してもフォーマットを用意すると効果的です。
もし、ドキュメントをテンプレート化していなければ、配信の準備を進めるなかで、アセットに追加で埋めないといけない箇所が次々に発生します。それにより、いつまでも準備が整わなかったり、他にも設定が必要な箇所の抜け漏れが発生したりしかねません。
そのため、MAの担当者に配信するうえで設定が必要な箇所を洗い出してもらう。もし有識者がいなければ、MA運用のコンサルタントなどの外部ベンダーに依頼することも考えられます。
マーケットワンで、メール配信にかかるアセットを作成する際に用いるフォーマットを一部抜粋すると、以下のような要件を定義しています。
マーケットワンでテンプレートを作成した際には、はじめにMAの有識者が中身を調査し、メール配信のために必要な要件を洗い出しました。そのうえで、ピックアップした要件を、顧客の目に見えるコピー関連と、MA内部の設定に関連する項目の2つでわけることで体系的にまとめました。
作業者は「インテイク(作成指示書)」を確認後、不明な点は適宜指示者と確認しながら、インテイクに基づいてアセットを作成します。それが終われば、完成したアセットについての「QA(Quality Assurance:品質を満たしているかについてのレビュー)」を第三者が行います。
この第三者によるQA体制を設けることも、ミスなく配信するうえでは重要です。前述のとおり、メールは送信後は修正ができませんので、アセット作成者とは別の有識者がQAする必要があります。
マーケットワンではQAに関しても、フォーマット化したチェックシートを使用しています。QAにおいては確認するポイントが多数あるため、誰がチェックしても抜け漏れなく網羅できるようにするためです。
マーケットワンで用いているQAシートの内容を一部抜粋すると、以下のようなものとなります。
上記のとおり、マーケットワンではQAにおいて「インテイクドキュメントで指示された仕様でアセットが作成されているか」「MAの設定はアセットに基づいているか」「UI上の問題がないか」などを確認しています。
さらに重要な点として、メール配信にかかるQAでは「顧客の受信環境」も考慮に入れたチェックが必要であることもあげられます。
<後編>マーケティングオートメーション(MA)の活用で知っておきたいメルマガ配信における重要指標でも解説したとおり、メールの受信ソフトは多岐にわたり、使われているテクノロジーの仕様が大きく異なることから、配信メールのデザインをレスポンシブにすることは容易ではありません。
そのため、自社で使うメールソフト以外にもマルチデバイスで確認することが求められます。マーケットワンではEmail on Acidというメールテスターを用いて、複数のソフトや端末での表示くずれ・レイアウトの乱れを確認していますので、これにより受信者の環境に依存せず情報発信を行えます。
標準化はマニュアル作成だけでは終わらない
MAを使ったメール配信の標準化について「コンテンツの準備」「配信プロセス」「プロダクション」の3の工程にわけて解説しましたが、各工程で個別のマニュアル/テンプレートの準備が重要である点は同様です。
一方で、マニュアルやテンプレートといったものは、“一度用意したら終わり”ではありません。例えば、コンバージョンを高めるためにメールテンプレートのUI/UXを改修したとしたら、必然的に設定やコピー周りも仕様が変わり、それに応じたインテイクドキュメントやQAチェックシートも編集が必要となります。
マーケットワンは、そのようなビジネス要件に応じて加えられた変更は、最新のものが反映されているかを確認するために、各種ドキュメントのバージョン管理も行っています。
このようなメール配信を標準化するためのドキュメントの作成は、メール配信業務の脱属人化を図れる有効な施策ですが、配信担当者が社内の有識者や各部門の意見も取り入れつつ、まとめ上げなければなりません。
そのため、自社内でMAを使ったメール配信を標準化する際には、まずは各工程で必要なマニュアル/テンプレートを用意する。すでに存在するのなら、担当者以外でも問題なくメール配信を進められる仕様になっているかどうか、あらためて内容チェックを行い、問題があれば改善をかけていくことが求められます。
プロセス・マニュアルを整えて定常業務に落とし標準化することで、業務の生産性を向上することや、属人化を防ぎミスを低減することが可能となります。