なぜABM(アカウントベースドマーケティング)は製造業と相性がよいのか?(6) - 実践編:ABMにおけるマーケティングと営業のすみ分け - | MarketOne

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なぜABM(アカウントベースドマーケティング)は製造業と相性がよいのか?(6) - 実践編:ABMにおけるマーケティングと営業のすみ分け -

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領域から考えるABMにおけるマーケティングと営業のすみ分け 

ABMを実施設計する際に避けては通れないのが同じアカウントに対していかにマーケティングと営業で機能的にすみ分けるのかとの問題です。そもそも、それ以前の課題としてABMのターゲット企業に対するマーケティングの関与を、営業チームが了承していないケースも多いのではないでしょうか。 

マーケットワンでもABMの施策の実行設計のご相談を経営層やマーケティングの方からいただいた際に、「営業は十分に(ABMに選定された)アカウントを攻略できていると言うが、マーケティング部門からの視点ではそう思えない」との声を頻繁に耳にします。 

このようなマーケティング・経営層と営業間の認識のズレを認識し、解決しない限りABMにおいてマーケティング・営業間で機能的なすみ分けは実現できません。本稿では、実際の事例を組み合わせた架空の企業A社のケーススタディーを基に、この認識のズレをどのようにして埋めていくのか解説します。 

 

製造業A社のケーススタディー 

まず、架空の企業A社は製造業で、下記のような事業戦略を行なっていると仮定します。 

製造業A社は本業であった工業用の部品を製造販売するX事業と買収した企業の事業である特殊な素材を製造販売する「Y事業2つの事業部から成り立っている。 

企業買収で得た事業と、従来事業のシナジーを発揮するため2つの事業の営業機能を営業本部という形で一つの組織にした。営業本部制に移行した数年後、ABMに注力していこうという機運が高まったためA社が注力してきて、かつ今後も業績の上昇が見込める業界の大企業をABMのターゲットに選出している 

その領域の企業に対して、A社保有の関連製品を組み合わせ、自社視点ではクロスセルを活用して顧客企業にとって付加価値のある提案を行い、自社の売り上げ・利益を繋げつつ、これから伸びていく企業と関係性を構築することで自社の競争優位性を向上させる戦略を採った 

さらに、A社において次のような課題が発生したとします。 

  • 営業本部制にしたものの、XY事業部の製品が大きく異なり、商談相手となる部署も違うためそれぞれの営業がかつてのように決まった相手、部署と自部門の製品に関する商談だけをしていたので、新しいコンタクト先の開拓を積極的に行っていなかった
  • X事業部の部品を購入してくれている顧客内の製造部門の中においても特殊な素材を提供するX事業部のキーマンがわからない 

類似した問題は、実在の企業においても散見されます。その原因は部門間で事業戦略に対する認識を統一できていないことに起因する場合がほとんどとなります。中長期的に各事業部のシナジーを発揮し、顧客企業に新しい価値を提供することで成長を図ろうとしても「どのようにして、どんなシナジーを発揮するのか」について具体化できていないのです。 

正しい戦略を立案できたとしても、それを実行する戦術に落とし込む段階になって課題が発覚する企業は珍しくありません。この課題を乗り越えられないため「正しい」戦略そのものが機能しないケースも多々存在します 

 

ABM達成のためにはプロセスにわけて実情を把握する必要がある 

A社のような企業ですと、ABMの目標は自社の既存製品のターゲット内でより多く使ってもらうだけではなく、自社の製品をクロスセルし、クライアントに付加価値を提供していくと想定されます。 

ABMの目標としては「どれだけクロスセルを達成できている企業を増やしていけるのか」などが考えられるでしょう。しかし、現状のままではABMに取り組んで12年経過したとしても、クロスセルがほとんど達成できていない状態に陥っていることが懸念されます 

仮に、A社からクロスセルが進まない原因の調査依頼を我々が受けた場合原因を解明するためまずは弊社のABMフレームワークでいう「Coverage」「Status」「Frequencyのプロセスで現状把握を行います。 

 

M1J-Marketing_202201_ABM第6回

 

その結果、A社では営業組織の機能としてXY事業の各製品を拡販するアップセル領域クロスセル領域において成果に大きな差が出ている原因が下記のように見えてきたとします 

A社の営業組織で対応できていた範囲(仮定)】 

M1J-Marketing_202201_ABM第6回
このように特定領域でしか営業が成果を発揮できていない原因として「アップセル領域の営業活動に時間が割かれ、リソース的に他の領域に工数を割くことが難しい状態に陥っている」などが考えられます。つまり、営業単独で全ての領域をカバーするには“荷が重すぎている状態”です。 〇営業単独で対応可能 ×営業単独では対応が難しい 

特定の領域でしか営業が機能していないと、新規のコンタクト獲得・ニーズ把握ができないその他の領域では、クライアント自身から問い合わせが来る「引き合い」に成果が大きく依存してしまいかねません。そうなると、ABMの機能性は著しく損なわれてしまうでしょう。 

引き合いは「キーマンとなるコンタクト」が自部門の課題を解決したいという「ニーズ」を持って向こうから問い合わせてきます。そのため、「Coverageのキーマンの把握や「Statusのニーズ把握機能なしに、「Frequency」の商談化まで進めることが可能です 

しかし、長い間引き合いに依存していると、特定のアカウント対して自社から積極的にキーマンのコンタクトを獲得し、ニーズを把握する機能が営業組織から失われてしまう結果に繋がります 

 

営業のあるべき姿と実情のGAPを埋める 

日本では、営業の力が非常に強いと言われます。A社の設定では、ABMフレームワークにおける「Coverage」「Status」「Frequency」のプロセスの全てを営業が担っていますが、これは現代における日本企業の実情を反映したものです。 

伝統的な日本企業では営業組織にはあるべき姿として上記3つのプロセスを遂行する機能を全て持っていることが求められますその場合営業組織はアップセル以外の3領域に関しても成果を出す必要があるでしょう 

しかし、現実はA社のようにアップセル以外の領域に関しては3つのプロセスに対応する機能を営業は持っていないという“GAP”があるのです。 

このGAPを解消し、足りない機能を補完するために求められるのが、「Coverage」「Status」のプロセスで発生する責任・役割を、マーケティングやインサイドセールスに分割する措置となります。 

つまり「キーマンコンタクトの発掘」「営業部隊が顧客に電話で行うニーズヒアリング」「アポイント獲得を行うKPI」を営業部隊以外に持たせるようにABM推進体制を転換することが必要です。 

例えば、前述のA社のABM推進体制は「営業単独でABMを実行し、アップセル領域外では成果が出ていなかった」との問題がありました。これをマーケティング・インサイドセールスに機能を振り分けると、下記のようになります。

A社のABM推進体制(方針転換後)】 

M1J-Marketing_202201_ABM第6回

このように、営業部隊そのものに「あるべき姿」を前提として、現状不足している機能を充足、実装させようとすると「反発が起きる」「積極的に取り組めない(めない)」などの状態に陥る可能性もあるでしょう。  

しかし、営業部門以外が「現状足りていない機能の実装」を担い、一度でもしっかり機能すると、営業部門として積極的にマーケティングやインサイドセールスを活用してくれるようにもなります。 

営業とマーケティングが機能的にすみ分けを行うためには、営業が引き続き多くを担う領域と、マーケティングやインサイドセールス(場合によっては研究開発なども)を巻き込んだ設計と実行を行う領域に分割することが重要です。そうしなければ、営業部隊からの理解・共感は得られないでしょう。 

 

おわりに 

ABMにおいて、営業とマーケティングで機能的なすみ分けを実行するためには、営業の“あるべき姿論”に固執せず、きちんと「領域」「プロセス」に分けることが成功への近道です。そのためには、まずは「領域」「プロセス」を設計し、現状の棚卸しを行いましょう。 

その上で、営業部隊も納得する形で成功のためのGAPを埋めていく機能をマーケティングやインサイドセールスに担ってもらう、必要なら外部の力も借りて埋めていくステップを踏む必要があります。 

外部からファンドが入り企業再建を図るのであれば外部人材によって否応なく自社の仕組みは変えられ、足りないもの削るべきものが明確になります。その場合、営業組織も適応せざるを得ませんが、業績が上向いているもしくは安定している企業においては営業の組織や仕組みに手を入れることは難しいでしょう 

しかし、「営業がすべての営業機能を担うべき」という“神話”や“幻想”から脱却することがABMを成功に導くためには大切です。会社の売り上げの形成を担っている営業機能も万能ではないと認めることが、ABMを成功させるための営業とマーケティングのすみ分けの第一歩と考えましょう。 

6回のABM連載も本稿をもって連載終了とさせて頂きます。ご愛読ありがとうございました 

 

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